「野村君で一本化しました」
今秋ドラフト会議のキーマンでもある広島は25日、今秋ドラフトで明大の野村祐輔投手を1位指名することを決めた。広島市内の球団事務所で行われたスカウト会議後、苑田聡彦スカウト部長は「野村に一本化しました」と明言。同会議に同席した松田元オーナーも地元・広島出身の好右腕にゾッコンらしく、「1年間ローテーションを守ってくれたら、10勝以上してくれそう」と、リップサービスしていた。
広島が野村投手の1位指名候補を表明したことで、今秋のドラフト戦線はある意味で『終結宣言』が出されたと言っていい。
今年の注目は原辰徳監督の甥っ子でもある菅野智之投手(東海大)。「家族関係には割って入れない」「親族を強行指名する場合は、指名後の交渉は可能か否か、内々に了承を取る」など、プロ野球界にはドラフトにおける“不文律”もあるという。しかし、原監督と菅野投手の親族関係に割り込むことができるとすれば、「広島の苑田スカウト部長だけ」だったのだ。苑田スカウト部長は、原監督の父・原貢氏が三池工業高校野球部を指導していた時代の教え子でもある。同スカウト部長が恩師のもとに出向き、「お孫さんをお預かりします」と挨拶すれば、原貢氏も無下にはできなかったはずだ。
ライバル球団のスカウトが菅野投手を巡る舞台裏をこう推測する。
「広島のドラフトは松田オーナーの意向が影響することも多いとは聞いています。松田オーナーが地元出身の野村君を気に入ったんでしょう。それと、苑田氏をもってしても、原家の親族関係に割って入ることはできなかったという、他球団へのメッセージでしょう」
この時期に1位指名選手を公表するのは、他球団に「獲るな!」とクギを刺す意味合いもある。現行ルールでは1位選手は入札抽選制であり、他球団が菅野、野村両投手の指名競合に参画し、当たりクジを引き当てれば、事態は一変する。
「野村君に関しては広島以外の球団も指名してくると思いますよ。先発完投能力の高い投手ですし」(前出・ライバル球団スカウト)
今秋のドラフトでビッグ3と称されるのは、菅野、野村、そして東洋大学の左腕・藤岡貴裕投手だ。藤岡投手は「アマチュアナンバー1左腕」とも賞されており、ストレートは150キロ強、制球力も高く、1位の指名競合が集中するのは必至だ。また、「広島の野村1位表明」が影響したのだろう。3日後にスカウト会議を開いた千葉ロッテが「藤岡1位」を表明した。
「左投手を欲している阪神は、千葉ロッテの『藤岡指名』の宣言に慌てたようです。明治大学に太いパイプを持つ星野監督(楽天)も、広島の野村指名発言をこのまま黙って見過ごすとは思えません」
警戒を強める声は各方面から聞かれた。
今のところ、今年は高校球界にスターが見当たらない。「磨けば光る原石」は多いが、どの球団も「できれば、1、2位指名は即戦力を」というのがホンネで、社会人・大学球界の好投手に指名が集中しそうだ。
今秋のドラフトに対し、出遅れてしまったのが、阪神である。一部報道でも伝えられたが、広島が野村1位を表明した翌日の5月26日、鳴尾浜球場で「阪神二軍対JX-ENEOS」の試合が行われた。倉又啓輔、大城基志の両左腕が好投し、左投手不足に悩む阪神スカウト陣を唸らせた。しかし、「評価はしているが、今年は野手に…」と言うに止まり、レギュラー野手陣の高齢化に悩むチーム事情も打ち明けている。
野手を1位指名するということは、慶応大学のスラッガー・伊藤隼太外野手か…。阪神は先発ローテーションを託せる左投手なのか、それとも、ポスト金本なのかを決め兼ねている。それが出遅れた理由である。
「中日の出方が分かりません。昨秋、左腕・大野雄大を指名しましたが、故障を抱えているので他球団は指名を回避しました。そういう消極的なドラフトに批判的な声も多く、今年は強気で迫るという情報も交錯しています」(在阪メディア陣の1人)
菅野の一本釣りに“障害”がなくなった巨人にも、非難の声は殺到するだろう。1位表明が他球団を牽制しているとすれば、またもやドラフトのルール改定が叫ばれることになりそうだ。
※プロアマ交流戦後の阪神スカウトのコメントは共同通信社配信記事を参考とし、簡略化いたしました。