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【不朽の名作】紛争地域での4人のサラリーマンのやりとりが面白い「僕らはみんな生きている」

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パッケージ画像です。

 突然海外で紛争や戦争に巻き込まれる日本人サラリーマンというのは、テレビ番組でも再現VTRなどで取り上げられることが多いテーマだ。そういった紛争地帯化してしまった地域に取り残された日本人サラリーマンを皮肉たっぷりに描いた作品が1993年公開の「僕らはみんな生きている」だ。

 主な登場人物は、アジアの架空国・タルキスタンでの橋脚事業の入札のために派遣された三星建設の技師・高橋啓一(真田広之)、三星建設タルキスタン支店長の中井戸浩(山崎努)、三星建設の対立企業であるIBCタルキスタン支店長の富田賢造(岸部一徳)、IBCタルキスタン支店社員の升本達也(嶋田久作)の4人だ。どの俳優も当時はアクション要素の強い作品での主役や、切れ者の悪役などを演じてきた猛者で、その4人がただのサラリーマンとして紛争地帯で振り回される時点でかなり面白いものとなっている。

 序盤は高橋が日本の常識が通じない現地人のデタラメさに困惑する場面から始まる。また新興国様々とばかりに、現地の軍人や有力者にこびまくる中井戸や富田の姿も印象的となっている。また、同作はヒロインポジションと呼べる女優が全く登場しない。というわけで現地でのラブロマンスや、浮いた話のひとつもなく、突然クーデターが発生し、銃弾飛び交うなか、ただただ日本のサラリーマンが命からがら空港まで逃げ帰る話となっている。一見、ただの逃避行ということで作品の魅力として乏しいと思うかもしれないが、風景面では邦画ではなかなかできない演出もある。

 ロケはタイで行ったとのことだが、現地スタッフが頑張ったおかげか、軍事政権の独裁状態にある国っぽさがかなりよく出ている。序盤、いきなり本物のM41軽戦車や装甲車が登場して軍事パレードする様子はかなりインパクトがある。戦闘シーンの火薬量もなかなかで、コメディ要素の強い作品でありながら、かなりの見どころとなっている。また、本物の軍用ヘリコプターを飛ばしての、ゲリラが潜む村への機銃掃射シーンや、兵士やゲリラがクローズアップショットで被弾するシーンなども用意されており、お気楽になり過ぎないように緊張感が出る演出も盛り込まれている。

 そして、そういったリアルっぽい戦場に、普通の日本人サラリーマンがいるというミスマッチが、なんといっても同作最大の魅力だ。序盤の山場である、クーデター発生後の市街地戦シーンでは、政府軍とゲリラが激しく銃撃戦を繰り広げる激戦地を、「我々は日本のサラリーマンです!」と現地語で叫びながら、パスポートを片手に横断していくというシュールな映像を提供する。しかも、中井戸の運転手だったセーナが、たまたまゲリラに参加しており、そのことに驚いていると「あいつら仲間だ!」と一旦銃撃を中断した政府軍から、集中砲火を受けるというコントのような展開のオマケつきだ。

 この市街地シーンはかなり見どころが多い。現地おばちゃんが、「何回クーデターやるんだ、やるんなら迷惑のかからないジャングルでやれ!」と怒鳴りながら戦場を横断するシーンも紛争が常態化している国というのを表していて面白い。 エビの仲買業者をしている井関修次郎(ベンガル)の任期が簡単に2年延長となり、紛争もそっちのけで発狂しているシーンなども印象的だろう。

 後半は激戦地となった市街地を避け、ジャングルを横断して空港を目指す展開となっているが、ここでは、元々ライバル企業同士だったはずの4人がなんとなく協力して危機を脱しようというやりとりがメインとなっている。まず、ジャングルにはゲリラの仕掛けたブービートラップがある可能性があるということで、ジャンケンで先頭を歩く人を決めるという話になる。このときの必死のジャンケンはかなり笑いを誘う。上司やライバル企業の関係者であるという立場そっちのけで、ジャンケンを後出ししたと揉める姿や、升本が隠し持っていた草加せんべいに対して他の3人が抗議するシーン、高橋が用を足している際に、ニシキヘビに遭遇し、他の3人が一目散に逃げるシーンなどで、極端にシリアスになりがちな逃避行をより観やすいライトなものとしている。しかも、中井戸はこういった極限状態にありながら、紛争解決後、政府に良い顔ができるようにと、無線で逐一、ブービートラップのありかを政府軍に報告するという商魂のたくましさだ。結果的にこれが原因で中井戸は終盤ゲリラに拘束されてしまうわけだが。

 終盤の中井戸を解放してもらうために、ゲリラと交渉するシーンは笑いどころはありつつも、解放される理由としては弱い。交渉材料として、自作したデジタル無線傍受装置を持ってくるものの、交渉もほどほどにほぼサラリーマンとしてのグチをゲリラに話しているという状態だ。この苦労話の演説を理由に解放はさすがにしないだろう。

 まあ、アラは多少あるにせよ、意図的にナショナリズムや道徳心、特定の思想を煽ることなく、時々シリアスありの、観ていて笑える紛争地域逃避行物語として成立していることがこの作品の価値ある点だ。映画というのは、色々な人の思惑が入ることがかなり多いので、特に国際問題のようなものを扱う作品で、同作のような位置に収まっている作品はなかなかない。

(斎藤正道=毎週土曜日に掲載)

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