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【不朽の名作】ヤクザ映画にヒロインを登場させた革命作「極道の妻たち」

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 今回はヤクザ映画に新たな可能性を与えた『極道の妻たち』(1986年公開)を紹介する。同作は、マンネリ化などにより人気が下降気味だったヤクザ映画に方向転換をもたらそうとした作品だ。若い女性層などにも受けるように、家田荘子のルポルタージュを原作に、それまでのヤクザ映画では脇役が多かった女性側の視点から描いた異色のヤクザ映画なのだ。

 人気を取るために女性を主人公にしてみるというのは、他のジャンルの作品でも良く試みられることだ。しかし、女性側視点を意識しすぎて、作品の雰囲気がガラっと変わってしまい、旧来のファンが離れる危険性もある。同作はというと、女性側視点としながらも、それまでの、お約束事ばかりで定番展開の多いヤクザ映画とは一線を画すシリアスな展開が多い作品だ。ヤクザ映画界に変化をもたらした代表作である『仁義なき戦い』ほどではないが、それでも血なまぐさい展開が多い。

 主役の粟津環役には岩下志麻が、環の妹でもう1人の主人公と言える池真琴役は、かたせ梨乃が演じた。当時はヤクザ映画のイメージがない役者をキャスティングしたのだが、岩下は1作目から極道の「姐さん」な立ち居振る舞いで、圧倒的な存在感を発揮している。その後、シリーズ4作目以降は主役が岩下で固定されたのも納得。かたせもシリーズを通して出演が多いが、この作品では惚れた極道と、数奇な運命をたどる役となっている。

 作中では日本最大の暴力団・堂本組の組長死去により跡目に納得がいかない過激派が、朋竜会を結成し、堂本組本体と対立し、抗争が勃発するという状況となっている。環は堂本組重鎮である夫の粟津等(佐藤慶)が服役中のため、その名代として抗争に介入していく。

 同作の抗争のベースは、当時全面抗争に発展していた、山口組と一和会の「山一抗争」だ。という訳で、元々身内だった者達が争う、かなり血みどろの抗争となっており、エンターテインメント性の強いタイプのヤクザ映画かと思っていると、その意外な展開の衝撃を受けることだろう。環は正義を重んじ、弱きを助ける“侠客”としては登場しない。夫のため、自身のために、服役中の夫にかわり、組のシマを倍に増やすほどのやり手のキャラとして登場する。抗争すらも利用し、重要な位置に入ろうと思考をめぐらすなど、かなり生々しい。

 極道の妻として、残酷なまでに有能な姉とは反対に、姉と対立する極道・杉田潔志(世良公則)を愛してしまった普通の女として登場するのが真琴だ。このふたりの対比が、女性主人公ならではの話の膨らみとなっている。肉親との決別や対立は、よくヤクザ映画やマフィア映画にはある展開だが、そのあたりの描写が、姉妹の男性観を通じて描かれる。

 とはいっても、そういった細かいところに集中しなくても、楽しめてしまうのが同作の良い点だ。なんといっても岩下の存在感がこの映画の魅力の8割くらいを占めているので。多数の組員に守られながらロールスロイスから降りる姐さん、襲撃されて内股からチャカを抜き出しぶっ放す姐さん、男の組幹部相手に凄味を利かせて脅す姐さん、どれも様になっている。また、荒事だけではなく、個人的には、組の女たちを集めての慰安飲み会や、『ゴッドファーザー』のヴィトー・コルレオーネのように、組に関わりのある人たちの“相談”にのっている日常パートのようなシーンもオススメだ。岩下のお仕事モードと全く違う顔のギャップのつけ方がかなりいい。

 環というキャラは、サングラスのシーンも多く、表情もあまり動かないことが多いのだが、そのかわり言葉の抑揚のつけ方だけで感情の変化を表している。それとは逆に、他の登場人物の表情の変化はかなり激しい。結果的に環1人が異質な存在となっており、そういった部分でも主人公として際立たせることに成功している。

 また、抗争というシリアスの中に、たまにギャグみたいな描写が入るのも、意外と好感が持てる。対立する朋竜会の親玉である小磯明正(成田三樹夫)宅に環の刺客が襲撃するシーンでは、トラックを突っ込ませ家を全壊させるという荒業に出る。瓦礫のなかから、小磯が「ごっつい地震やなあ」と登場するシーンは、もはやコントのオチだ。関係ない立場から見ると完全にギャグシーンなのだが、当事者にとってみれば「いつでも殺せるぞ」という最上級の脅しになっており、家が壊れたのを見て小磯の妻が恐怖で絶叫するシーンは笑い所でありながら、かなりの説得力がある。

 ラスト付近の姉妹の争いが、若干キャットファイト気味になるのもある意味見どころ。もみ合ううちに、環と真琴の衣服が破れていき、絶叫をあげているのに、組員達は完全放置。いや銃声もしたんだから止めに入れよ! とツッコミたくなってくる。あえて部屋の外で立ち聞きしている組員達がカットバックされるなど、狙ってこういうシーンにしているとしか思えない。ちなみに、キャットファイトの後の、環と真琴のセリフは、女主人公のヤクザ映画である同作をある意味で象徴する会話となっている。

 あと、同作で忘れてはいけないのが杉田の子分・花田太市を演じた竹内力だ。竹内はこの作品の後、ヤクザや不良関係の映画やVシネマへ出演することが多くなる。岩下と竹内の、役者としての方向性を決定付けた作品としても同作は重要かも?

(斎藤雅道=毎週土曜日に掲載)

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