前述した'10年暮れのアップルマネー1000億円投入は、この亀山第1を指してのことだった。金に色は付いていないとはいえ、アップルが先行投資に大枚を注ぎ込んだからには経営監視に目を光らせようとして当たり前。だからこそ、工場出資にとどまらず「大株主として、にらみを利かせることになるのではないか」と警戒する声も聞かれる。
アップルによる経営支配にまで発展するかどうかはともかく、その脈絡で捉えればシャープが、ソニー、東芝、日立製作所による液晶パネル連合「ジャパンディスプレイ」に参加しなかったのも納得がいく。果たせるかな、関係者は「経済産業省を後ろ盾とする官民ファンドの産業革新機構の誘いにシャープは応じなかった。その時点でアップルがツバをつけていたに違いない」と苦笑する。
とはいえ、笑うに笑えない話もある。同じくアップルから1000億円の資金提供を受け、今年3月、石川県にアップル専用の液晶工場建設に着手したはずの東芝は、ジャパンディスプレイにくみしたことで「アップルが激怒し、金を返せと迫っている」と情報筋は打ち明ける。二股をかけられていたのだから無理もない。ところが当の東芝では広報担当者が臆面もなくこう言ってのける。
「石川の新工場について会社が何ら発表した事実はありません。アップルが激怒している? 個別取引についてはお話しできません」
サムスンに法廷バトルを挑むアップルが、東芝の“忍法”をどこまで許すか見ものである。
一方、シャープウオッチャーは「これでアップルが経営に口出しする事態になれば、ただでさえ不協和音が囁かれる町田会長と片山社長の関係が一気にギクシャクする。そうなれば血で血を洗うお家騒動に発展しかねません」と警告する。
シャープ会長−社長コンビの確執はつとに有名で、ここ数年は実力者の町田会長が「いつ社長追放の荒業に打って出るか」が経済記者の関心事だった。当然ながらアップルも、そんな事情は百も承知。シャープの“救いの神”として登場、との思惑があるからこその1000億円なのだろう。
アップルは見返りに何を望むのか…。日の丸連合に逃げ込んだ東芝ともども、アップルが切る“次のカード”から目が離せない。