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「本屋大賞」の存在意義を問う

 全国の書店員が一年間で一番売りたい本を選ぶ「2009年本屋大賞」の発表会が先ごろ行われ、湊かなえさん(36)のデビュー作「告白」が大賞に選ばれた。「告白」は早くも増刷が決定し、売れ行きは好調だ。だが最近の受賞作品には有名作品が目立ち、他賞との違いがなくなってきたとの批判もある。本屋大賞よ、どこへ行くのか。

 優れた作品を発表しながらも文壇の賞に恵まれない作家がいつの時代にも存在する。文壇の重鎮が選考委員に名を連ねる文学賞はさまざまな“政治”の関与を否定しきれない。そこで生まれたのがこの全国書店員が選ぶ本屋大賞だ。
 しかし、近年の受賞作品には「売れている本ばかりだ」との批判の声も聞こえてくる。06年大賞のリリー・フランキー著「東京タワー」は受賞前にすでにミリオンセラーになっていた。また、東野圭吾著「容疑者Xの献身」、桜庭一樹著「私の男」、そして今回8位の「悼む人」はすでに直木賞を受賞しており、受賞によってさらにハクがついたとは言いにくい。本屋大賞の意義とは何なのか?
 同賞実行委員会の浜本茂理事長は「賞の創設はあくまで書店の活性化を目的としたもの」と主張する。出版社や書店は、もう何年も続く不況にあえいでいる。その起爆剤になればそれでいいとの考え方だ。

 実行委員の努力の賜物か、回を重ねるごとに選考に参加する書店と書店員数は増加中。注目度は増すばかりだ。しかし同時に、この10年間で全国約6000の書店が減少してしまった事実も見逃せない。
 その背景には大型書店の陰で個人営業する街の本屋が苦戦を強いられている現実がある。街の本屋はどんな本を並べるかを自由に決められるというメリットがある。大学教授ご愛用の理工系書籍専門店や、軍事オタクが泣いて喜ぶ軍事書籍専門店。 
 個人書店がまだ元気だったころには、書店員の圧倒的な読書量と知識量で他店にはない特色を打ち出していたものだ。その頃はまだ、本屋をはしごする楽しさがあった。
 本屋大賞の意義はそんな貧窮する個人書店を応援することにもあるのではないだろうか。メジャーな本ばかりがノミネートされては、個々の本屋の特色は薄れるばかり。そうなれば決まった一冊を大量に並べ大量にさばくことのできる大型書店の独壇場だ。本づくりの最終点である本屋さんを救うためにも、個性あふれる良書が浮上するような仕組みづくりが急がれる。

◎大賞「告白」湊かなえ著、双葉社
 大切な娘を失った女性教師がある日、生徒らに向かって「愛美は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」と語る。各人物の告白形式で語られる物語は怒涛の展開で真相に迫っていく。後味が悪いと賛否両論を呼んだラストも話題に。
 デビュー作が大賞受賞の快挙にも、湊さんは受賞の喜びを「『これからがんばれよ』と桃太郎がきび団子を渡された感じ」と謙虚に喜んだ。

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