球界の盟主と言われた巨人の査定もハッキリしていた。「毎日投げないと投手よりも、毎試合出場する野手の年俸の方が高いのは当然」という明快な方針があった。今は「野手よりも肩が消耗品の投手の方が大変だ」という考え方で、どこの球団も投手の方が年俸アップしやすくなっている。
だからホリさんなんか、「今の投手は恵まれすぎている。オレなんか生まれた時代が早すぎた。あれだけ勝っても、年俸なんかたいして上がらなかった。今だったら、何億円もらえているか、わらないぞ」と嘆くんだ。確かに、今の投手のように1週間に1回しか先発しないなんて時代ではないからね。ホリさんなんか、ダブルヘッダーで第1試合で先発して勝ち、宿舎でノンビリしていたら、急きょ呼び戻され、第2試合はリリーフ登板なんてこともあったからね。「生まれた時代を間違えた」というボヤキもわかるよ。
でも、オレはONの偉大さをとんでもないデータで知らされ、「これじゃかなわないな」と思ったから、素直に「V9は打高投低」と認めるんだ。今から40年以上も前のことなのに、大手広告代理店がコンピューターに何百項目のデータを打ち込んで、ONへの依存度を調べた。
そうしたら、なんとONへの依存度は90%という数字が出たんだ。これじゃ我々投手陣は文句が言えないと思ったよ。なにしろ依存度90%だ。オンブにダッコされているようなものだろう。
さらに、驚かされたのは、この数字は巨人軍に対するものだけではなかったんだ。ONに依存していたのは、他のセ・リーグ球団も同じ事。いや、パ・リーグの選手もONに依存して、年俸のいくらかは、ONからもらっているようなもの、という信じられないデータが出てきたんだよ。
昭和の日本プロ野球界を背負って立った、「球界の至宝ON」というのは、オーバーな表現でもなんでもなく、事実だったんだ。ONがいたから、巨人軍だけにとどまらず、セ・リーグ全体、さらにはパ・リーグまで恩恵を被っていたんだよ。こんなスーパースターコンビは2度と現れないよね。
昭和49年(1974年)10月14日、あの長嶋さんの涙の引退セレモニーを見たときに、「ONのNが引退して確かに一つの時代が終わった」と、オレはしみじみと思った。「ミスターとともに日本の経済は高度成長を遂げたが、引退と同時に神武景気、岩戸景気から続いた高度成長神話もピリオドを打った」と書かれた文書を読んだことがあるが、本当にその通りだと痛感したね。
<関本四十四氏の略歴>
1949年5月1日生まれ。右投、両打。糸魚川商工から1967年ドラフト10位で巨人入り。4年目の71年に新人王獲得で話題に。74年にセ・リーグの最優秀防御率投手のタイトルを獲得する。76年に太平洋クラブ(現西武)に移籍、77年から78年まで大洋(現横浜)でプレー。
引退後は文化放送解説者、テレビ朝日のベンチレポーター。86年から91年まで巨人二軍投手コーチ。92年ラジオ日本解説者。2004 年から05年まで巨人二軍投手コーチ。06年からラジオ日本解説者。球界地獄耳で知られる情報通、歯に着せぬ評論が好評だ。