甲子園への道すがら、在京球団スカウトに尋ねた。ひと昔前、スカウトはスピードガン、ストップウォッチ、双眼鏡などの“七つ道具”も持ち歩いていたものだが、近年は違う。メモ帳、資料、ケータイ、あとは熱中症対策のタオルやペットボトルをカバンに入れているだけである。
「数字はアテにならないからね。ウチだけじゃないと思うよ」
全く使用しないわけではないらしいが、スピードガンやストップウォッチの数値で高校球児を評価するのは「ナンセンス!」と、失笑していた。
高校生のスカウティングで、もっとも重要なのは「将来性」である。当たり前の話ではあるが、スカウトはそれを見抜いていて、彼らは「3年後に(一軍戦に)出てこられるのか、それとも5年後なのか」を見極めているという。
「3年以上掛かるのなら、指名を見送るのも『愛情』だと思ってほしい。プロの二軍、育成枠で4年くらい頑張るのか、それとも大学、社会人に進んで頑張るのか、それを選択する権利は球児にあるのだから」(在阪球団スカウト)
ネット裏のスカウトが時々、こんな言葉も口にする。「様子を見ましょう」−−。
たとえば、捕手の肩の強さを調査する場合、二塁送球に何秒掛かったのかを測るより、その送球モーションや、投手、内野手に「盗塁の警戒シグナル」をきちんと送ったか否かの方が重要になってくるという。また、投手のボールにしても、同じ140キロでも、バッターボックスでそれ以上の速さを感じさせる速球もあれば、その反対もある。
こうしたプレーの1つ1つが野球センスであり、将来性を測る重要なポイントになってくるのだ。
「様子を見ましょう」とは、指名にゴーサインが出し切れない“業界用語”であると同時に、「真の野球センスを見抜く場面がなかった」という意味らしい。
「プロの世界で通用する高校生ってのは、1人でも練習できる精神力を持っているものです。まあ、高校生までは監督、コーチの『やれ!』って言う練習をやるだけですからね。それは仕方ないとしても、プロの世界では『受け身』のままでは通用しません。一軍に上がれるかどうかは、二軍監督よりも本人の責任の方も大きい」(前出・同)
埼玉西武ライオンズは生え抜きの好選手が多い。しかし、二軍首脳陣が特別な指導をしているのではない。スカウティングの優れた球団だという。球児の向上心は、試合よりも、むしろ普段の練習態度を見なければ判断できない。育成システム・環境はプロ野球球団にとって疎かにできない要素ではあるが、強いチームになれるかどうかは、スカウトの熱意に掛かっているようだ。
今夏、ネット裏のスカウトの人数が例年と比べて少ないように思う。それは魅力的な高校球児が少ないからではなく、すでに地方大会や練習で調査を終えているのかもしれない。(スポーツライター・飯山満)