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球界地獄耳・関本四十四の巨人軍、ダッグアウト秘話(4)

 ON伝説の中でもその偉大さを実感させられるのが、「ONボール」だろうね。打倒・巨人、打倒・ONに燃える相手チームのエースが悔しそうに口を揃えたもんだよ。「絶対にストライクだ。最高の球なのに、ONが見逃したから『ボール』と審判が判定してしまう。あのONボールに何度やられたことか」と。

 現在は現役引退している審判OBはこう反論しているそうだ。「ONボールというのは、相手投手とマスコミが作り出したもの。審判としたら、逆にONに対しては厳正にジャッジしなければと意識しすぎて、時に厳しすぎる判定をしたと思っていますよ」。だけど、確かにONボールは厳然と存在していたよ。V9巨人が誇る、柴田、土井、高田、末次、森さんら海千山千の小姑軍団が認めているからね。
 スエさんなんか、ONボールがあると、間髪入れずにベンチから審判に対しヤジを飛ばしていたからね。中日のエースだった権藤博さん(元横浜監督)がこう語っていると聞いた。「ONボールの帳尻あわせをやられた柴田や土井らが『俺たちの時にボールをストライクと言って埋め合わせをするんだから、たまらないよ』とぼやいていたんだから、ONボールが存在したのは間違いない」と。
 が、実際はぼやくというよりも「しようがねえなあ」とあきらめの心境で、むしろ「またか」と大笑いしていたというのが事実だ。ONボールの存在を認知するしかなかったんだよ。王さんが「ONボール? オレは選球眼が審判より良いんだ。だけど、ミスターは違うだろう」と、ONボールと一緒くたに呼ばれることに反論しているそうだが、確かに王さんの選球眼はすごかった。
 「オレは来るボールのシンをくりぬこうと思ってバットを振っていた」というくらいだから、あのドングリ眼でボールを見据えていたんだろう。となれば、きわどいコース、高低も見極めていただろうね。長嶋さんの場合は全く違った意味で、審判はストライクゾーンのギリギリはボールに判定しなければいけないやむを得ない理由があったんだよ。というのは、長嶋さんは打ちにいって寸前にオーバーアクション付きでバットをピタリと止める。このパフォーマンスがまた絵になるんだよ。ファンもドッと沸き、拍手喝采する。審判としたら、ストライクとは言えないだろう。ボールと言うから、ファンに大受けするんだからね。ストライクを宣告したら、ぶち壊しだろう。

 それに、これは全く楽屋裏話なんだが、審判が無意識のうちにONボールを認めざるを得ない事情があった。なにかって? 球界の至宝・ONのサインですよ。審判は公平無私の立場上、直接はもらえないが、球団の職員や運動具メーカーのON番を通じてかなりのサインをもらっている。審判だって神様でなく人間だから、ONに対してはお世話になっているという、心理的な恩義は感じているだろう。だからストライクともボールとも取れるきわどいコースの球は無意識のうちにボールと判定してしまうんだ。圧倒的に多い巨人ファンも喜ぶわけだしね。
 まあ、いろいろな理由はあるだろうが、ONボールを球界全体に認知させてしまったONがいかに偉大かということだよ。今後、こういう伝説はできないだろうな。可能性があったのは、イチロー・ボールと松井ボールだが、残念ながら2人ともにメジャーへ言ってしまったからね。

<関本四十四氏の略歴>
 1949年5月1日生まれ。右投、両打。糸魚川商工から1967年ドラフト10位で巨人入り。4年目の71年に新人王獲得で話題に。74年にセ・リーグの最優秀防御率投手のタイトルを獲得する。76年に太平洋クラブ(現西武)に移籍、77年から78年まで大洋(現横浜)でプレー。
 引退後は文化放送解説者、テレビ朝日のベンチレポーター。86年から91年まで巨人二軍投手コーチ。92年ラジオ日本解説者。2004 年から05年まで巨人二軍投手コーチ。06年からラジオ日本解説者。球界地獄耳で知られる情報通、歯に着せぬ評論が好評だ。

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