キャンプインを迎え、米メディアが「彼こそサムライ」と日本での活躍の様子を紹介するとともに、今回の決断を分析している。2000万ドル(20億円超)のオファーがありながら、4億円で古巣に8年ぶりに復帰を決めたのは「プロスポーツ界の多くの成功者がそうしたようにビジネスマンへの転身が狙い」だという。これまで培ってきた球界人脈とメジャーで学んだマネジメントのノウハウを生かし、監督をスルーして「球団経営を目指している」と見ているのだ。
広島東洋カープの球団株式は、マツダ社創業家の松田家が60%、マツダ社が30%、地元の新聞社とテレビ局が10%といわれる。上場されていないため正確な所有者は明らかにされていないが、市場に出回っていない以上、入手は困難を極める。その球団株が黒田のカープ復帰の決定打になったという。
「快くメジャーに送り出してくれた広島のファンに、最後はカープでの約束を果たしたい−−。男気というのも事実だろうが、そう簡単に10億円を超す大金を義理や人情で捨てられるものじゃない。黒田には、エージェントも弁護士も資産管理のコンサルタントも付いており、そのあたりはしっかりしている。カープ復帰で損出した16億円など十分に回収できる、そう踏んだのでしょう。というのも松田元オーナーの意を受けた広島サイドが、交渉の切り札として松田家が保有する株式の一部を譲渡してもいい、という条件を持ち出したというのです。契約金代わりに球団株の10%超を譲渡したという水面下の情報もある。これが事実なら松田家だけでは過半数割れし、黒田と連合しなければ経営権を維持できない。つまり、共同経営を持ち掛けたのです。たかが10%程度の株式と思うかもしれませんが、その価値は計り知れない。もし上場することになれば、数10億円にバケる可能性があるからです」(大手広告代理店幹部)
黒田はメジャーで通算7シーズンプレーし、この間に8800万ドル(約106億円)を稼いでおり、その気になればカープ株などいくらでも買い増せる。カープ復帰は球団経営の第一歩。米国流でいえば、今シーズンはいかにしてカープに付加価値を付け、投資の対象としての魅力をアピールするかがテーマなのだという。
「昨年来のカープ女子人気で注目度は巨人、阪神に勝るとも劣らない。そこに黒田と新井貴浩が帰ってきた。エースの前田健太は今シーズンを最後にメジャーに転身する。大瀬良大地、野村祐輔の“若鯉3本柱”は今年が最後。つまり、今季のカープはなりふり構わず24年ぶりのセ・リーグ優勝に突き進むことになる。そう思うからこそ年間指定席は早くも完売だし、カープグッズも今年は330種増やし、計600点になった。アベノミクス効果で日経平均株価は約15年ぶりの高値水準にまで回復しており、球団の株上場を検討するにはまたとない好機なのです」(スポーツ紙デスク)
広島といえば、思い出すのがホリエモンだ。球界再編で揺れていた10年前、堀江貴文氏(ライブドア元社長)は亀井静香衆院議員の刺客として2005年の衆院選で広島6区から出馬した。無所属ではあったが、選挙応援に当時の武部勤幹事長や竹中平蔵大臣が駆け付けたように、小泉純一郎首相が放った刺客であるのは明らかだった。
もっとも堀江氏が立候補を決断した真の狙いは、後に読売新聞グループ渡辺恒雄会長が暴露したように“カープ買収”にあった。仙台ライブドアフェニックス構想が霧散したことで、フジテレビ買収で得た1440億円でカープを買収。その足掛かりとして広島県選出の衆院議員を目指したのだ。
「ホリエモンにしても、阪神電鉄の買収に動いた村上ファンド(村上世彰氏)にしても、球団買収の狙いは球団の株式上場にあった。プロ野球は熱烈なファンが多く、例えばファン20万人に『1株5万円』で株を持ってもらえれば、それだけで100億円が調達できる。ファン一人ひとりが“自分がオーナー”だと思えば、これまで以上にその球団を応援する。広島カープは毎年黒字を計上しており、堅実な経営として実績を持つ。東証マザーズなどに上場を申請すれば、すぐさま通るでしょう。球界とは無関係の堀江氏や村上氏とは違い、黒田が経営権を握るのであれば、オーナー会議が球界初の“上場球団”を容認する可能性は高い」(前出・代理店幹部)
上場が長引いたとしても、球団株を所有していれば経営に携わることができる。望めば監督就任は容易。球団トップと現場責任者を兼任できるのだから、思い通りのチームができる。
「いつ壊れてもいい…復帰1戦目で肩が飛んでも…後悔はしない」
復帰会見で語った黒田の意気込みだ。
「昨年、契約選手のアダム・スコットや錦織圭が大活躍し、飛ぶ鳥を落とす勢いのユニクロが次に狙っているのが黒田であり、カープなのです。同社のスタートは広島が1号店で、柳井正会長はカープの地元ともいえる山口県宇部市の出身。黒田同様、カープへの思いは強い。黒田と柳井会長が手を結ぶ可能性も十分にあります」(地元テレビ局)
男気の鎧をまとった黒田の炯眼は、規格外としか言いようがない。