「ホウオーが一番強いと思っていますが、まだまだこの時期、見えないところで虎視たんたんとキバを研いでいる馬がいるかもしれませんからね。油断大敵ですよ」
くしくも大本命と目されているフサイチホウオーの松田国師が慎重にもこう話した。
その得体(えたい)のしれない不気味な存在とは、今回初顔合わせとなるニュービギニングにほかならない。
デビュー前の追い切りでは、お世辞にも「走る」とはいえない再三の併走遅れ。偉大なる7冠馬の兄ディープインパクトと比較の対象にすらならなかったが、いざフタを開けてみると…。
昨12月3日の阪神デビュー戦。2分8秒0(芝2000m)という超平凡な時計ながらも、ラスト1F11秒3を刻み、番手から鮮やかに抜け出して見せた。「やっぱり、この血統だね」鞍上・武豊をして、こう言わしめてみせたのである。
もっとも、陣営による半信半疑のリップサービス(?)から「この馬も!」と幾千万ものディープファンに、“夢よ再び”を植え付けさせるのに、時間はかからなかった。
デビュー2戦目のホープフルS。惜しまれつつターフを去りゆくディープのバトンを引き継ぐかのように、宙を舞うかのような直線一気を演じて見せた。その勝ちっぷりには、天才が「少しだけ飛んだ」と興奮気味に話せば、調教役の片山助手も「中山の直線であの怒とうの追い込みが決まるとは思ってもいなかった。並の馬ではできない芸当。間近で見ていてすごかった」と驚嘆した。
サンデーサイレンスからアグネスタキオンに父がかわったことで、かん性のきつさからくる尻っ跳ねがトレードマークだった兄とは対照的に、性格は非常におっとりしているというビギニング。片山助手は「完成された馬とは違って、まだまだ雑な面がいっぱい」と課題を挙げるが、「その分、ディープに近づける伸びしろがある」と、その将来性に大きな期待を寄せている。
まさしく大本命ホウオーにとっても、脅威を感じる「未知との遭遇」になるに違いない。
さらに、ビギニングはわずか2戦を経験しただけで周囲の想像を絶する成長力を見せている。「体に幅が出て、バネのある筋肉がついてきた。一歩一歩の踏み込みが強くなった分、攻め馬でも上がり時計が速くなった」と片山助手。
その言葉通り、あれだけ攻め駆けしなかった馬が、直前の31日にはDWコースで6F80秒8、上がり3F38秒1→12秒6の好時計をマーク。併せた僚馬サクラオリオンを問題にせず、楽々と1馬身切って捨ててみせた。
「デビュー戦でビックリさせられて、2戦目はその2倍ビックリした」と“蹄跡”を振り返る池江郎師は、「おっとりした気性も今は前向きになってきたし、何だかディープの面影が出てきたね。まだまだいっぱい隠れたいいものを持っている素材。ひとつひとつキャリアを積むごとに、秘めたるポテンシャルが解き明かされてくるんじゃないかな」と胸を躍らせている。
「今回が正念場だが、ここを勝てばクラシックが見えてくるね」と指揮官。偉大なる兄から弟へ。新たなる伝説はここから始まる。