「“あの女には気をつけろ”との注意が会社から出ていた。というのも、やたらとキレやすい性格なんです。道順なんかでも、料金をつり上げるためにわざと遠回りしたとか言い出すから、仲間がそれで何度も揉めたらしいですよ」
そのため、地元では浮いた存在でもあったという容疑者夫婦。そんな2人が作品の買い取り先として頼っていた一人が、田代さんだった。
『孤董館』は、田代さんが'75年に開業した骨董店で、書画、陶器、壺、刀剣など出所の確かな物だけを扱う、正統派な店として業界でも定評があったという。今回の事件を受け、業界関係者は、田代さんと櫻井容疑者に交流があったこと自体に驚きを隠せない様子だ。
「田代さんと正男容疑者の間に約10年前から取り引きがあり、約20回にわたって陶器を数十点やりとりしていたと聞いて驚きました。確かに正男容疑者は作陶の腕はまあまあで、そこそこの作品を作れる男です。しかしそれでは食べていけなくて、贋作を手掛けるようになった。最近になっては、自分で焼いてそれを汚し、安土桃山時代の作などと偽って売りにくるようになった。最初は100万円だ200万円だなどとふっかけてきますが、偽物だと指摘すると、10万でも5万でもいいから買ってくれと言う。そんなことを常習的にやっていた男と田代さんに関係があったことは意外。ただ、田代さんも優しい人だったから断りきれなかったのかもしれません」(東京の古美術店主)
また、前橋市内で古美術店を営む人物は次のように語る。
「この何年かの間、正男容疑者が壺の収集家だと称して、古陶器を何点か売りに来ました。それでも、見たところ全くの偽物で買うわけにはいかないと言うと、『自宅の屋根を修理しなければならない。5万円貸してくれないか』と懇願されましたよ」
前出の古美術店主の話では、最近の骨董ブームで、贋作も5万円〜10万円で櫻井容疑者のような男から仕入れ、それを30〜50万円ほどで素人に売り捌く骨董商も多くいるとのことで、そのような市場も出来上がっているという。
陶芸家一本での稼ぎを夢見て一緒になった夫婦が、贋作での商売さえ限界を迎えた末路か。事件が発生した3日の夜、2人が水上温泉郷の共同浴場に現れる姿が地元住民により目撃されているが、人を殺めた事実は洗い流せない。