交流戦に突入し、パ・リーグのいくつかの球団首脳陣はそんな“愚痴”をこぼしていた。今さらではあるが、交流戦は2005年の導入後、総勝利数でセ・リーグがパ・リーグを上回った年は2009年のみ。今年度も交流戦2カードを終了した時点での勝敗はパ・リーグ15勝、セ・リーグ9勝。「指名打者の使い方に長けたパ・リーグ」の試合巧者ぶりは否めない。それなのに、中日が恐れられている。事実、中日だけは負けナシの4連勝と好スタートを切った(16日時点)。どうやら、中日は「セ・リーグの特徴」をそのまま交流戦に持ち込んだようである。
「交流戦開幕カードが中日の強かさを象徴していました。『情報戦』の勝利ですよ」(在京球団スコアラー)
中日の交流戦最初のカードは対ソフトバンク戦。中日の先発は吉見一起(25)で、ソフトバンク・秋山幸二監督(48)はホールトン(30)を送った。そのホールトンの先発が発表された時点で中日ベンチは「勝利を確信した」という。
「吉見、ホールトンともに昨季の交流戦で3勝を上げています。投手戦になると思われたんですが…」(前出・同)
ホールトンの調子は決して悪くなかった。しかし、5回3失点で『敗戦投手』になった。ともに、交流戦を得意としている者同士。吉見とホールトンの差は何処で生じたのか? パ・リーグのある球団スコアラーは『警戒』の意味を込め、こう分析していた。
「パは予告先発制です。中日は予告先発投手名を見て、パ対戦チームがどの投手をぶつけてくるか逆算し、それ相応の対策を練っていたんだと思う。でなければ…」
ホールトンは釣瓶打ちにされたわけではない。走者を背負った場面で適時打を浴びてしまった。つまり、配球の傾向や「窮地になると、どんな球種が多くなるか」を中日スコアラー陣が分析し、その成果が表れたのだ。
「ソフトバンクは中日の先発が吉見だと絞りきれてなかったようです。ローテーション投手の順番では吉見になりますが、中日先発陣は『中6日』で投げることが多く、その日数に従うなら、チェンでした。吉見なのか、チェンなのかで少し迷っていた」(前出・同)
落合博満監督(56)はパ・リーグの予告先発制を巧みに利用し、先発投手を予告しないセ・リーグのやり方でソフトバンクベンチを混乱させたわけだ。12日の交流戦初戦で負けチームになったパ・リーグ球団は、ソフトバンクのみだった。落合監督は通常のシーズン中も「喋らない指揮官」で通っているだけに、「中日とはやりにくい」とパ・リーグ側が思うのは当然か…。
12日、翌13日も、落合監督は何も語らずに球場を後にした。
「パの野球は予告先発だから騙し合いがなくてつまらない。指名打者制で投手に代打も送れないから…」
これは、オリックス・岡田彰布監督(52)が交流戦突入後に語ったもの。どちらの野球が優れているかではなく、相手チームの先発投手を読む必要がない分、阪神時代よりも試合前のミーティングにさほど時間をかけなくていい。その反面、自軍の選手の好不調がそのまま勝敗に直結するだけに「各選手の状態を見抜く」ことが重要となり、こちらに時間を費やさなければならないという。
中日のダンマリ作戦は功を奏した。『指名打者制』に長けたパ・リーグの有利さを覆すまでには至っていないが、劣勢の続く他セ・リーグ5球団は落合政略を参考にした方が良さそうである。
【訂正】「総勝利数でセ・リーグがパ・リーグを上回った年は1度もない」とありましたが「総勝利数でセ・リーグがパ・リーグを上回った年は2009年のみ」の間違えです、訂正してお詫び致します。