野村監督が徹底した後任暴露を仕掛けている。
「ヤクルトの荒木(投手コーチ)が俺の後任候補らしいな。荒木に監督がやれるのか」と楽天担当記者にリークして書かせる紙爆弾投下作戦。さらには、当事者にもネチネチ口撃する。
ヤクルトID監督時代の教え子の古田氏(前ヤクルト監督)が取材に来れば、「古田、お前がワシの後の監督候補らしいやないか。もう球団のトップと何度も会っているそうやな」と正面から切り込んでいく。「そんなことあるわけないでしょう」とあわてる古田氏の対応を見てニンマリ。
WBC日本代表投手コーチを務めた与田氏(NHK解説者)があいさつに来た際にも「楽天の監督の話があるそうやないか」と直球を投げた。
「人事は正式決定する前に表面化したら潰れる」は、一般企業もプロ野球界も変わらない。ポスト野村のウワサを耳にしたら、暴露して消してしまえという作戦だ。
同時進行で、野村監督が進めているのが人質作戦だ。「WBCから帰ってきて一皮も二皮もむけた」とナインが目を見張っているマー君こと田中将大投手を味方に引き入れるためのゴマスリ戦術を展開。開幕以来、4試合連続で完投勝利した田中をこれ以上ないくらい絶賛した。「神様・仏様・田中様やな。稲尾の後継者ができた」「1点あれば勝てる。本当のエースや」と田中賛歌はエスカレートするばかりだ。
ID野球でヤクルト時代に名捕手・古田を育てたという金看板で名将扱いされるようになったように、今度は「神様・仏様・田中様」で延命を図ろうとしている。
ノムさんのボヤキはテレビ局をはじめマスコミには好評だが、楽天球団首脳は食傷気味。だからこそ世代交代を大義名分に、野村監督にはお引き取り願おうとしている。それを熟知しているだけに、田中を育てたという実績を盾に、来季続投を狙っているのだ。
ボクトツな田中が「監督にウイニングボールを渡せて良かった。あとは先輩たちに頑張ってもらいたい」と、ヒーローインタビューで答えるものだから、野村監督は内心笑いが止まらないだろう。マインドコントロールは、大成功している。
だが、ナインが証言するように、3年目の田中が大化けしてきたのは、日の丸を背負ったWBC日本代表選手としての世界一体験だ。レッドソックス・松坂大輔から貴重なアドバイスを受けた財産、重圧のかかる国際舞台の修羅場の経験などが田中を急成長させた。野村監督の手腕というわけではない。そのあたりの事情は楽天球団首脳は先刻承知している。田中が右肩の張りを訴え、4月30日に出場選手登録を外れたことも、ノムさんにとっては誤算だろう。
ただしファンは分かっていないかもしれない。野村監督&新エース田中の師弟関係に対し、ファンが熱烈支持を表明してくれるかどうか。今季限りという絶体絶命の危機から、来季続投を勝ち取ろうとする野村監督のサバイバル戦術の成否は、ファンという神の声に懸かっているともいえる。