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ダイハツに続きスズキ取り込みを狙うトヨタ大野望の落とし穴

 トヨタ自動車が51.2%出資するダイハツ工業を今年8月1日付で完全子会社化する。その狙いを豊田章男社長は1月29日の記者会見で「当社は中型車以上や先端技術は得意だが(ダイハツが得意な)小型車では存在感を示せておらず、この分野のノウハウがなければ、さらなる成長が難しい」と言い切った。
 トヨタは昨年上半期こそ独フォルクスワーゲン(VW)に世界販売台数で世界一を譲ったとはいえ、年間を通しては依然トップで、実に4年連続で世界トップの座をキープしている。そのトヨタにとってウイークポイントと指摘されてきたのが、低コストでの生産が求められる小型車と新興国市場だった。とりわけ小型車は今後、新興国を中心に成長が見込まれる。ダイハツの完全子会社化は、それを見据えての戦略に他ならない。

 ダイハツに対するトヨタの“外堀”作戦はシタタカだ。両社は1967年に業務提携し、'98年にはトヨタが出資比率を過半に引き上げた。以来、徐々にトヨタ流になじませた後、今年の8月には完璧に取り込む作戦なのだ。
 「現在の三井正則社長はダイハツのプロパーですが、2013年6月に就任するまではトヨタ出身者が社長ポストを独占してきた。プロパー社長の下で完全子会社化カードを切れば、社内の反発が抑えられる。そこにトヨタ流処世術が透けて見えます」(業界担当記者)

 トヨタの野心はダイハツ丸のみにとどまらない。次いで食指を動かしているのがスズキだ。同社の鈴木俊宏社長は2月2日、訪問先のニューデリー(インド)で記者団に対し「トヨタや他の自動車メーカーと提携する計画はない」と語ったが、これを額面通りに受け取る関係者は誰もいない。実際、1月末には複数の大手メディアが「両社が提携交渉に入った」などと報じている。それどころか、長年にわたるスズキ・ウオッチャーはこう証言する。
 「スズキがVWとの提携解消を求めて提訴した仲裁裁判所での“国際離婚”が大詰めを迎えた昨年3月、スズキの鈴木修社長(当時)は裁判に勝った場合と負けた場合を想定し、トヨタの豊田章一郎名誉会長に資本提携を打診している。裁判に勝ったスズキはVWから買い戻した約1億株(発行済み株式の約20%)が金庫株になっており、これをトヨタが引き取るシナリオが有力です」

 VWとの提携を解消したスズキは、環境・安全技術の高度化に向け強力なパートナーが欠かせない。世界的に環境規制が厳しくなる中、研究開発費は2000億円に満たず、単独での生き残りは厳しいのが実情だ。
 一方、トヨタはそれ以上の魅力をスズキに抱いている。新興国市場が弱点であることは前述した通りで、とりわけインドでのシェアは4%程度に甘んじている。ところが彼の地に先行進出したスズキは40%超と断トツの存在感を誇る。その知見や経営資源はトヨタにとって垂涎の的なのだ。当然ながらスズキからのラブコールは、陣容拡大路線を突き進むトヨタにとって渡りに船である。
 「スズキとダイハツは軽自動車で壮絶な覇権争いを演じている。その手前、スズキへの露骨な接近は控えざるを得ないのでしょうが、ダイハツを丸のみした後ならば問題はない。豊田章男社長が、そんなシナリオを描いているのは確実です」(ディーラー関係者)

 ダイハツに続いてスズキも“落城”すれば万々歳だが、果たして思惑通りにコトが運ぶのか。折も折、トヨタ向け特殊鋼を生産している愛知製鋼の工場で爆発事故があり、国内生産ラインが1週間にわたって停止するアクシデントが発生、トヨタの他のグループ企業をも直撃して大パニックに陥った。“自前主義”の下、在庫を極力抑える戦略を取ってきたことから一子会社の事故がグループ全体を揺るがし、『プリウス』などの納期が大幅に遅れる失態を演じたのだ。
 これがもしスズキへのグリップを強化した矢先だったら、トヨタ流合理主義への風当りが一層強まったのは間違いない。

 もっと悩ましい問題がある。もしスズキを子会社化すればトヨタの世界販売は一気に1300万台に達し、その地位は揺るがない。これが自動車産業のルーツを自負する米ナショナリズムを刺激するのは必至だ。一歩間違えれば、6年前に豊田社長が米国トヨタ社員を前に泣き顔をさらしたリコール騒動の悪夢再現もあり得る。関係者が不吉な感想を漏らす。
 「昨年の上半期世界一VWは、今や排ガス問題でガタガタです。事の発端は米当局に目を付けられ、不正を暴かれたこと。そのデンで行けば、トヨタが断トツ世界一を謳歌し続けられるとはとても思えません」

 やはり、出る杭は打たれるのか。

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