ノアの象徴、三沢光晴さんの訃報はマット界に大きな衝撃を与えた。その悲しみは計り知れないが、現実を見つめたとき、“悲しい”だけでは済まされない。ノアしかり、他団体しかり、レスラーはどんな悲報があろうとも前進しなければならないからだ。
「今回のマイナスを乗り切るために、メジャー3団体はより強固な連係が必要になってくるでしょうね」。こう話すのは、ある団体関係者だ。メジャー3団体とはいわずと知れた新日本、全日本、ノアのことで、今年に入ってから非常に密接な関係を築いている。
今回の事故でもクローズアップされたが、3団体統一のライセンス発行に向け、新日本・菅林直樹社長、全日本・内田雅之取締役、ノア・仲田龍相談役(当時は統括本部長)、最近ではプロレスOBの馳浩衆議院議員も加わって、何度となく会談を重ねている。過去に新日本と全日本、全日本とノアなどふたつの団体がそろうことはあっても、3大メジャーが同時となることはなかった。それだけに、今回の連合にかける本気度はかなり高いと見ていいだろう。
そして、三団体連合の大きな事案であるライセンス発行に関して、大きな役割を期待されるのが全日本の武藤敬司社長だ。当初、ライセンス発行に関して、中心になるのはノア・三沢社長だと目されていた。志なかばで天国に召されてしまった今、その思いを継ぐのは武藤しかいないというのが周囲の目だ。
武藤は三沢さんと同時代に生まれ、ともに天才と称された。現在の社長兼エースという立場も酷似している。武藤自身も三沢さん急逝に関して強い思いを抱いているだけに、亡き盟友の遺志を継ぐ可能性は十分に考えられるだろう。
ノアでは、相談役に退いた仲田氏が、これまで手がけていた懸案に関しては引き続き自身が行う構えを明らかにしている。さらに田上明新社長も三沢さんの遺志を継ぐことを明言し、これまで以上の融和政策をとると見られている。
かつて田上の付き人をしていた杉浦貴が、7・20新日本・札幌大会で棚橋弘至のIWGPヘビー級王座挑戦を果たしたのに続き、真夏の祭典「G1クライマックス」(8・7広島大会で開幕)にも出場することがそれを象徴している。
三沢さんの死をきっかけに、メジャー同士のつながりはより強固なものになっていくのではないだろうか。
そんなメジャー3団体に対するのが、アントニオ猪木率いるIGFを中心とした闘魂同盟だ。
一昨年6月に旗揚げされたIGFは、メジャー3団体の動向に左右されることなく、独自路線を貫いている。猪木という絶大なるネームバリューを誇る象徴が先頭に立ち、これぞストロングスタイルという試合を全国のファンに届けてきた。会場には常に超満員のファンが集結。2〜3カ月に一度と興行数こそ少ないが、他団体にはない熱気を生んできたイベントである。
そんなIGFも昨年末から変化の兆しを見せている。昨年11月の名古屋大会に初代タイガーマスク、藤波辰爾という昭和新日本の流れを汲む、ベテランふたりが参戦。まさかの初シングルを実現させ、ファンを熱狂させたのは記憶に新しいところだが、これを機に猪木と初代タイガーらが急接近した。
彼らは「プロレス復興」を合言葉に、IGFだけでなく、リアルジャパンやドラディションなどで、レジェンドにしか見せることができない戦いをファンに提供。独自の形でプロレス人気再燃への動きを見せている。
猪木・IGFとは直接的な連動こそ見せていないものの、革命戦士・長州力も藤波&タイガーに呼応。“龍虎革命”を実現させるべく、ユニットとしての活動を活発化させている。こうした動きも、猪木らが目指す「プロレス復権」に繋がっていくもの。
今後の日本マット界は三大メジャー連合、闘魂同盟の二大勢力がどのように動くかで大きく勢力図が変わってくるだろう。氷河期といわれる現状を打破するためにも、二大勢力による切磋琢磨は大歓迎。今年の夏から秋にかけて、日本プロレス界に新たな風が巻き起こる。
◎猪木&藤波&長州つなぐ初代タイガー
闘魂同盟のキーマンは初代タイガーだ。“プロレス黄金期の復活”という目標こそ同じだが、猪木、藤波、長州の間には、いまだ少なからず確執に似た感情は残されている。これは幾度となく闘いを繰り広げてきた人間にとって、消すことのできないものではあるのだが、その中和役となるのがタイガーだ。
一番年下ながら独自の存在感を発揮し、藤波、長州のみならず、猪木に対しても物言うことができる数少ない人間。今回の同盟に関しても、タイガーが間に入っているからこそ成立すると見る向きもあるほど。三大メジャー連合に対抗する勢力になるためにも、タイガーの役割は大きくなるだろう。
(イラスト・たけだつとむ)