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【不朽の名作】内田裕也がレポーター役で当時の過激な報道を描く「コミック雑誌なんかいらない!」

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パッケージ画像です。

 数々の名言(迷言?)やスキャンダルで有名なロック界のレジェンド・内田裕也。その内田が企画・脚本・主演を担当した映画が1986年公開の『コミック雑誌なんかいらない!』だ。

 作品タイトルは内田がファンであるという「頭脳警察」の楽曲のタイトルから。同作は、当時に実際に起きた事件やスキャンダルを扱った作品となっている。内田は主役である芸能レポーターのキナメリを担当。彼の目を通して、ストーリーは展開していくことになる。

 同作で扱っている実際の事件はロス疑惑や松田聖子と神田正輝の結婚、山口組と一和会の抗争(山一抗争)、豊田商事事件など。内田が脚本に関わっているということで、さぞロックで破天荒な内容かと思うと、意外と社会派で、当時内田が報道に感じた、違和感や皮肉などが込められている。

 しかし、内田が芸能レポーター役をしているのが、凄まじい違和感だ。別に作品の展開にかかわるほどの支障ではないけど…。キナメリという人物は、当時ワイドショーなどで人気だったレポーターの梨元勝をモデルにしていると言われている。キナメリは元ネタ通りに「恐縮です!」と現場に突撃するのだが、演じているのがあの内田だ。強烈な威圧感を与えている。正直異質すぎて、あれじゃ答えてくれるものも答えてくれないだろうと、ツッコミを入れたくなる。このあたりは一応ロックなのかな。

 この作品の魅力は、虚実入り混じったような演出だ。「モキュメンタリー」「フェイクドキュメンタリー」と呼ばれるような手法と近いものとなっている。とはいっても、以前にフジテレビ系で放送されていたドラマ『放送禁止』や、森達也が企画してテレビ東京系で放送した『ドキュメンタリーは嘘をつく』のように、完全に事件や事故などまで空想で作って、さもドキュメンタリーのように話を展開していく作りではない。最近の作品だと、『帰ってきたヒトラー』のように、大筋のストーリーラインは創作だとしても、実在の人物を実名の本人役で登場させたりするなど、観ているうちにこれはドキュメンタリーなのかと錯覚させる作りなのだ。

 序盤はかなりこの手法が強烈に観る側を刺激する。いきなり、当時よりやや前に話題だった、桃井かおりと高平哲郎との交際の一件で、桃井がなんと本人役で登場する。さらに当時ロス疑惑の渦中にあった三浦和義まで本人を登場させて、キナメリが突撃取材を敢行するという、かなり攻めた話の展開もある。どういった経緯で、オファーを受けたのかは謎だが、かなりロックしているキャスティングだ。カメラアングルも徹底してワイドショー風なのも注目。加えてその合間に、盟友・安岡力也(もちろん実名登場)に、当時内田が感じていたであろう、ロック界に対するマスコミの扱いに関して文句を言わせる場面なども用意されている。この文句が高圧的なのだが、言われているのが内田なので、かなり面白い絵図だ。

 また、山一抗争の現場をキナメリが訪れるシーンもかなり臨場感が出ている。このシーンでは、建物の上から撮った俯瞰と、キナメリに同行しているカメラマンの映像の2つのアングルが使われているのだが、本物の暴力団構成員に突撃取材をかけたような臨場感だ。ちなみに、本当に突撃をかけたのかもしれないとの噂もある。内田が結構ガチっぽくカメラマンなどに怒っていたので、ひょっとしたらそうかも。あとは、当時人気だったおニャン子クラブに取材をするシーンなども見どころだ。絵的な違和感と、当時メンバーだった、五味岡たまきなどとやり取りしているうちに、思わず苦笑してしまう内田に、普通のおじさん感が出ていて笑ってしまう。

 この勢いで突っ走ってくれればよかったのだが、中盤の風俗取材のカットは、映画の審査的な問題もあって、かなりマイルドになっており、もの足りなさが強い。このへんでは、キナメリの行き過ぎた突撃取材が災いして、左遷された状況になっているので、モキュメンタリー的な表現も鳴りを潜めており、キナメリの心理描写メインだ。その描写も、淡々としすぎて、あまり面白くないので、正直中だるみと言わざるを得ない。風俗業界の多角化という、当時の時代を象徴する出来事ではあるのは確かなのだが。

 しかし、序盤に問題シーンを詰め込むだけ詰め込んで、最後がだれないのはこの時代の凄さなのだろうか。クライマックスは、豊田商事会長刺殺事件をモデルにした事件で締められる。企業名こそ変えてあるが、悪徳商法が問題化し、自称右翼の2人組が会長を殺しにくるところは全く同じだ。この事件はマスコミが会長自宅で張り込み取材中に発生した殺人事件として有名で、犯人が会長自宅に押し入る瞬間から、血染めの銃剣を持って戻ってくるまでの一連の映像がテレビで流れた。今ではありえないことだろうが、当時は報道がかなり過激で、こういった映像も普通に流れていたのだ。

 このシーンでは、犯人役をビートたけしが演じており、押し入るまでの行動を、実際の映像をほぼ完全コピーしている。あまりに完璧すぎて、たけしの笑わせにくる勢いのエセ関西弁がなければ、本物の映像かと錯覚してしまうほどだ。なお、実際に事件では、犯人が会長宅に押し入った際に誰も止めなかったことで、マスコミが叩かれていたが、ここでキナメリは部屋に突入して、会長が刺殺される結果は変わらないが、犯人を止めようとするのだ。このやりとりと、クライマックスのキナメリのセリフが、過激なマスコミや、それに喜ぶ大衆に対する内田の気持ちを代弁している。

 が、現在販売されているDVDなどでは、キナメリがどこで犯人を止めるほど心境の変化を起こしたのかが分かりにくくなっている。なぜなら、豊田商事会長刺殺事件と同じ年に発生した、キナメリにショックを与えた、某飛行機墜落事故をモデルとした映像がカットされているからだ。この飛行機事故の映像には、当時の事故現場の写真などが使われており、おそらくそれが原因でカットされたのだろう。ノーカット版はかなりプレミアがついており、入手は困難なので、このあたりは脳内補完して観た方がいいだろう。当時の空気感や、内田のロックじゃない、社会派な部分を知るにはかなり良い作品だ。

(斎藤雅道=毎週土曜日に掲載)

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