下馬評ではライバル局の挟み撃ちに「巨人戦の開幕戦視聴率は史上初の1ケタ必至」とされ、巨人ファンにとどまらず、球界関係者が神経を尖らせていた。
結果は高橋由、井端の“アラフォーコンビ”の活躍で3-2で勝利した巨人戦が10.7%、岡崎、本田のゴールでハリルジャパンの初陣を勝利で飾ったサッカーが13.6%、男子ショートプログラムで羽生が首位に立ったフィギュアが15.7%。何とか2ケタ視聴率は獲得したものの、面目躍如とはならなかった。
「巨人戦の商品価値が値崩れしているのは確かですが、サッカー日本代表や他のスポーツにコンテンツ的に劣っていると考えるのは早計。球界の人気勢力地図で巨人が急激に衰えていることの方が大きい。Jリーグの発足以来、スポーツ全般で本拠地制度が確立し、どの競技も各地に根を下ろした。プロ野球もしかりで九州はソフトバンク、北海道は日本ハム、東北は楽天が人気を支配しており、大阪、名古屋、広島はとっくの昔に阪神、中日、広島が牙城を築いている。巨人もようやくそのことに気付き、東京ローカルに徹する戦術にスイッチした。ユニホームの胸に『TOKYO』の文字を入れたのはそのためです。しかし、同じローカル路線なら地道にファンを育て上げてきた実績を持つ広島カープには勝てない。日本ハムも楽天もお手本はカープです。広島の人気が爆発的に上がり、巨人人気が衰退するのは自然の流れなのです」(大手広告代理店)
オープン戦を3勝7敗3分の最下位で終えた広島だが、球団に営業的な不安は微塵もなかった。3勝全てを米大リーグから8年ぶりにカープに復帰した黒田博樹投手が挙げたからである。ファンは十二分に満足し、あらためて球団に感謝の意を表した。
その黒田は開幕3戦目の3月29日、対ヤクルト戦に先発。7回96球、5安打5三振1四球、無失点に抑え、2740日ぶりとなる日本での白星を挙げた。スタンドには3万1500人を超えるファン。これで日米通算183勝となり、200勝へのカウントダウンもスタートした。過去、日米200勝投手は野茂英雄氏(201勝)しかおらず、カープファンは今季中の野茂超えを願って黒田フィーバーはバージョンアップしている。
中国電力(広島市)のシンクタンク『エネルギア総合研究所』が先に公表した経済効果は256億円。8300席が用意(9万8700円〜36万7500円)された年間指定席は完売。黒田効果で今季の主催試合の総入場者は、昨年を36万人も上回る226万人と試算している。それに伴いグッズの売れ行きや飲食店のにぎわい、他府県から訪れる観戦者の宿泊費、交通料金など、何やかやで広島県内での前年比経済効果は39億円増加するとはじき出した。
「カープの経営手腕は球界一です。メジャーの20億円オファーを蹴飛ばさせて推定年俸4億円プラス出来高で呼び戻し、これで15億円超の含み益。その黒田で年俸の何倍も稼がせ、ファンからも地元経済界からも感謝される。戦力も増し、人気も上がった。あの大塚家具の父娘に会社経営の処方箋をプレゼントしたいほどです」(スポーツ紙デスク)
アベノミクスならぬ“クロダミクス”を当て込む広島の商魂は凄まじい限りだ。マツダスタジアムの巨人戦では、オレンジに染まる東京ドームをまねして外野スタンドを赤タオル一色にする作戦。同じくヤクルト戦では、赤いビニール傘でスタンドを埋めようと関連グッズを販売。あの手この手の黒田便乗商売は花盛りだ。
「黒田効果は全国にも波及している。中でも恩恵にあずかっているのが入場者が激減しているナゴヤドーム。今季は巨人戦、阪神戦を上回る人気になっており、今や救世主です。カープ女子の来襲でそっち目当ての“カープ男子”が急激に増えている。ナゴヤドームで出会ったカップルが夜の街に繰り出し消費する。まさしくカープさまさまです」(ドラゴンズ球団関係者)
東京ドームと甲子園では別の現象も起きている。巨人、阪神戦はチケットの入手が困難なこともあり、カープ女子がCSで広島戦をテレビ中継する居酒屋に集結。生ビールと枝豆でテレビ観戦するスタイルは、まさに昭和のオヤジそのままで、そんなカープ女子会も各地で大人気。目ざとい店は「カープが勝った日はドリンク半額」。これが業界の今年のトレンドだという。
ついには貸し切り新幹線まで登場した。広島は5月16日の対横浜DeNA戦に合わせ、球団が東京駅から広島までの片道1便を貸し切り(2200万円)、東京、横浜などから1300人のカープファンを乗せるという太っ腹企画も用意した。参加費の5000円は必要だが、これで試合観戦料(球団グッズのお土産付き)と広島までの片道新幹線料金は無料となる。超プラチナチケットだ。
スタンドから始まった赤ヘル旋風が、他球団のグラウンドをも席巻。まさに球界ハイジャックである。