そんな私がたった一度ではあるが、妖怪と遭遇体験をした時のことを書きたいと思う。私が十歳の頃の記憶である。
場所は長野県諏訪郡富士見町、季節は秋だった。
私はその頃、近くの小川に遊びに行っては、川原に落ちている小石を集めたりすることに興味を持っていた。
その日も学校から家に帰ると、そのまま近くの小川に向かった。その小川は幅が一メートルほどで、流れはその規模と比較すれば、わりと激しい様子だった。
何時ものように、私が川原で小石を拾っていると、ふと耳慣れぬ音がしているのに気がついた。
「じゃり、じゃり、じゃり」
まるで、小豆を研ぐような音が耳元で聞こえるのである。小川のせせらぎとは明らかに異質な音だった。
私はその音のする方角を、熱心に探し出した。
必死に音のする方角を探して、音の正体を見つけ出そうと躍起になった。
やがて、陽は傾いて辺りは夕闇に包まれそうになっていた。私ははっと気が付いて、慌てて家路へと急いだ。気が付けば、いつのまにか駆け出していた。
以上である。
恐らくその妖怪の正体はあずきとぎだと思われる。これは今から三十年も前の話である。
その後、その場所には富士見パノラマスキー場が建てられた。周辺の森林は伐採され、その小川もそのときの区画整理によって消えた。
その体験以後、私は妖怪の存在を信じるようになった。
(藤原真 山口敏太郎事務所)
参照 山口敏太郎公式ブログ「妖怪王」
http://blog.goo.ne.jp/youkaiou/