空港を出てトゥクトゥクに10分ほど揺られれば、そんな人々が多く集まるバックパッカー街に到着する。ブイビエン通りの両側にはゲストハウスやレストラン、旅行代理店が密集し、バーやディスコからは深夜までクラブミュージックが流れ出ている。ズンズンと通りに響くリズムは旅行者達の心臓を絶え間なく振動させ、眠ることを許さない。
一方で隣のファングーラオ通りの片側沿いには約1kmにも及ぶ公園が伸びており、昼間は旅行者達の、夜はそこに地元民も加わる憩いの場となっている。スタイル維持に汗を流す女性のエアロビクス集団に、タンクトップ姿でランニングをする欧米人。ベンチにはアツアツのカップルもいれば、夜の相手を探す同性愛の方たちもいる。それぞれが自由に自分たちの時間を過ごす中で、特に強い存在感を放つのがダーカウをするベトナム人達だ。
ダーカウとはラケット代わりに足で羽根を蹴るバトミントンのような競技。彼らは幼いころからこの公園で毎日羽根を蹴っているのだろう、そのほとんどが神がかり的なテクニックを見せる。脚をクロスさせながら靴の側面で蹴り返したかと思えば、アウトになりそうな背面へのオーバーショットも脚を後ろへ蹴り上げるようにして足の裏で返してしまう。
そんな神業を見せてくれるのはなにも若者だけではない。50を過ぎているであろうおっちゃん達もしなやかな動きで熟練の技を披露してくれる。
その光景に、私も含め異国の見物客は見入り感嘆の声を上げる。そして私達の歓声に応えるように、次から次へとトリッキーな技を繰り出してくれるのだ。それはまさにショー。彼らも間違いなく見られることに快感を覚えている。
ホーチミンの街には終日、にぎやかでありながらものんびりとした空気が流れる。不思議なことに首都であるハノイではこの羽根を蹴る音を耳にすることはあまりない。ハノイは東京、ホーチミンは大阪。日本でよく聞くこの例えは、ダーカウを通して見てみるとなんとなく分かる気がする。
國友俊介
【プロフィール】
國友俊介 (くにとも・しゅんすけ)
旅×格闘技、アジアを自転車で旅をしながら各地のジムを渡り歩いている。目標は世界遺産を見ることではなくあくまで強い男になること。日本では異性愛者でありながら新宿2丁目での勤務経験を持つ。他にも国内の様々なディープスポットに潜入している。
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