同作のロボデザインは、当時アニメ『超時空要塞マクロス』などのメカデザインを手がけ、売れっ子デザイナーとなっていた河森正治氏が担当。監督・脚本には「スター・ウォーズシリーズ」などで、日本語版吹替版の演出を担当した、原田眞人氏が抜擢された。さらに、後に「VSゴジラシリーズ」でも、多くの演出を手がけることになった川北紘一氏が、特撮技術監督として特撮部門の指揮を担当するなど、当時このジャンルの実力者と目される人物たちが結集して制作した映画だった。
今でこそハリウッド映画には「トランスフォーマーシリーズ」や『パシュフィック・リム』など、有名な巨大ロボットアクション映画はあるが、これらのジャンルが本格的に登場したのは1990年の『ロボ・ジョックス』からだった。という訳で、この映画は世界に先駆けて放映された巨大ロボットアクション映画となるのだが、興行的に成功と言えるものではなかったようだ。
特撮がショボかったから、人気が出なかったという訳ではない。川北氏の特撮演出はすばらしく、ガンヘッドの無骨なデザインをよく活かした演出が随所に見られる。これより少し後に公開された『ゴジラVSビオランテ』を見ればわかると思うが、当時は操演(ピアノ線などで、人形などを動かす技術)やミニチュアセットなど、東宝のアナログ特撮技術が最高峰に達していた時期といってもいい。若干映像が暗いシーンが多めだが、爆発の中を進むガンヘッドの走行シーンや変形シーン、誘導ミサイルや建物破壊の演出などで、現在では再現不可能なのではと思われる技術がこれでもかと使われ、重厚感や迫力を出している。
それではなぜ人気が出なかったのか? これは個人的な見解になってしまうが、オリジナル作品としては冒険しすぎた感のある、複雑なストーリーにあったのではないだろうか。
複雑とはいっても、よくダメな映画にありがちの唐突に変な設定が出てき困惑という状態ではない。各シーンを“注意して”見ていれば、その背景がわかるようにはなっている。例えば、高嶋政宏演じる主人公・ブルックリンと、ミッキー・カーチスが演じるトレジャーハンターのリーダー・バンチョーとの関係性だが、バンチョーは序盤にあっさり死んでしまうので、なんの注意もなく見ている視聴者には「あ、死んだ」くらいの感想しか湧かない。しかし、注意して見ていると、ブルックリンはバンチョーと同じシガレットケースを、にんじんスティック入れとして愛用しており、ガンヘッドで出撃する際も、何かを決心したかのように、バンチョーの愛用していた飛行帽をかぶって戦うので、ブルックリンにとって親がわりような存在だったのではとようやく予想できる。同作では、人間関係以外にも、数多く登場するSF設定などにもこの“注意して”確認することが要求される。
もともと原作などで説明済みならいいが、この作品は、完全オリジナル作品となっているので、それも望めない。普段から映像作品の細部まで見るクセのある人には、かなり楽しい作品になるが、それ以外の人にとっては、「わかりにくい」という印象しか残らない作品になってしまう。加えて、この作品は無国籍を意識したのか、海外展開を考えていたのか、日本語と英語が入り混じって会話が展開される。その影響で、唐突に入ってくる字幕も注意して見なければならず、余計にストーリーを理解することを困難にさせている。現在の邦画なら、おそらく説明セリフのひとつやふたつは入れているところだろう。
こうした状況でも、万人受けするように、面白くするやり方は、あるにはある。とりあえず作品の目玉である巨大ロボットを序盤から登場させて、有無を言わせないほどに激しく暴れて、勢いで乗り切る方法だ。しかし、この作品ではタイトルにもなっているガンヘッドがなかなか出てこない。ようやく出てきても最初は修理シーンで、動いているシーンはというと、100分ある本編の中で30分程度あるかないか。敵メカである、人類に反旗を翻したコンピューター「カイロン5」が操る「エアロボット」との対決となると、もう殆ど時間が用意されていない。修理シーンも、細かなメカなどが見ることができて楽しいは楽しいのだが、これではメカ好きの視聴者だけの支持しか得られないかと思う。ここまで商売的に成功の難しい、冒険的なオリジナルシナリオでも、企画が通ってしまうのが、バブル景気の力なのだろうか。例えば、80年代にアニメで流行った『太陽の牙ダグラム』や『装甲騎兵ボトムズ』の実写化に同様の技術を活かしていれば、世界初といってもいい実写巨大ロボアクション映画の評価も変わったものになっていたかもしれない。
さて、ストーリーが複雑と散々言ってきたが、悪い部分だけではないので、そのあたりも解説しようと思う。ブルックリンが搭乗する、ガンヘッド507には、戦闘用AI(人工知能)がついているのだが、こいつがなかなか皮肉の効いているAIで、ブルックリンとの掛け合いがかなり面白い。同じ80年代の作品でいえば米国ドラマの『ナイトライダー』のキッドや、最近でいうとアニメ『翠星のガルガンティア』のチェインバーのように、機械のはずなのに、所々で人間臭い言葉を主人公に浴びせて、苦笑いさせたり、奮い立たせたりするのだ。あと、作中BGMもかなり印象的。たしかこの作品のBGMは、某警察のドキュメンタリー番組などでも多用されていたので、知らずにBGMだけ聴いている人も多いと思う。
ちなみにこの作品には、地上波で放送された際に英語の部分を含めて、全ての部分を吹き替えた「吹替版」が存在する。吹き替えだと、字幕で不十分だった情報も、付け足した状態で入ってくるので、かなり良いのだが、現在発売しているDVDでは残念ならが未収録となっている。2010年代に入ってから、20年以上の時を経て、作品のメーキングDVDや、ガンヘッドのプラモデルが発売されるなど、再評価の動きのある本作なのだから、そろそろブルーレイなどを発売した際などに、本編と同時収録して欲しい気もする。
(斎藤雅道=毎週金曜日に掲載)