東北出身のEさん(19)がメールをくれました。
<てっちゃん、元気してる? Eは、すごく元気だよ! 今週の月曜日、コスプレイベントがあるんだけど、よかったら来ない?>
私の足が遠のいていたために、Eさんとの日常のやりとり、それにまつわる話が一切ありません。私自身、このEさんの顔を思い出せません。しかも、このメール、「てっちゃん」を変えたら、誰にでも当てはまる内容になっています。
「あ、いつものコピペ営業メールなんだろうな」
と思ったために、返信も電話もせずに放置していました。その放置にも何の反応もありません。反応がなければ余計に「コピペメールだな」と思ってしまいます。
キャバクラ嬢のみなさん、仮に「コピペの営業メール」だとしても、お客さんへは「あなたに送っている」というサインをどこかに書いてください。もし、イベントに姿を見せなかった場合は、
<今日は来なかったね、残念>
といったメールくらいは欲しいものです。そうすれば、少なくとも「顔は覚えている」ことのメッセージになります。
ある晩、初めての店に入るエレベーターで、初老の男性に会いました。ニコニコしながら、話しかけてきました。
「もう嫌になっちゃうよ。こんな時間に、女の子に呼び出されちゃったよ。『今夜はイベントなんだけど、来て!』って。こっちだって、いろいろ忙しいんだよな、もう」
話した内容とは違って、楽しそうでした。指名嬢やお気に入りの嬢からの電話だったのでしょう。そうした嬢からの誘いは、自然と顔が緩んでしまうものです。そういって、私とは別の店に消えて行きました。そうすいた姿を見て、私は、
「『嫌だ、嫌だ』といいながら、でも、喜んで店に行くようなお客って、いいな。店の女の子で、特に何があるというわけでもないというのに、自然と足が向いてしまうのは、いい飲み方だな」
と思ったのです。
たしかに、イベントは、女の子たちがいつもと違った服装をしたり、キャラクターを変えたりしていたりして、常連客へのサービスの日です。と同時に、新しい客を確保するきっかけになります。
嬢からすれば、いろいろな人に来てほしいのはわかります。だからこそ、コピペの営業メールが多くなるものです。仕方がないのかもしれません。だからといって、コピペの乱発はどうかと思うわけです。
「いつもと違う、指名嬢やお気に入り嬢の姿も見たい」
という気持ちも常連客にもあります。そして、
「イベントだから、たくさんお客がくるんだろうな。行くの辞めようかな」
とも思ったりもします。お客の気持ちも揺れるのです。そこに、背中を押す営業電話、あるいはメールがあれば、「仕方がない、行ってやるか」、あるいは、「今夜も会いたい」と思ったりもします。ちょっとしたことで客の行動が変わるのです。
<プロフィール>
渋井哲也(しぶい てつや)フリーライター。ノンフィクション作家。栃木県生まれ。若者の生きづらさ(自殺、自傷、依存など)をテーマに取材するほか、ケータイ・ネット利用、教育、サブカルチャー、性、風俗、キャバクラなどに関心を持つ。近刊に「実録・闇サイト事件簿」(幻冬舎新書)や「解決!学校クレーム “理不尽”保護者の実態と対応実践」(河出書房新社)。他に、「明日、自殺しませんか 男女7人ネット心中」(幻冬舎文庫)、「ウェブ恋愛」(ちくま新書)、「学校裏サイト」(晋遊舎新書)など。
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