ヘルプの嬢に嫌なことを言うわけではなく、セクハラめいたことをするわけでもない。だけど、話してて何かこう嫌な感じを否定できない。そして何故か、マリさんというベテランの綺麗な方も絶対一緒に指名する。気になるのが、マリさんは柴田さんが来た日、店が終わると更衣室で号泣するということ。最初の頃は、その時だけ何かあったのかと思ったけど、そのうちこれが恒例行事のようなものだと気が付き、わたしは店長に聞いた。「大丈夫なんですか? あんなにいつも泣いてて心配なんですけど…」店長ははっきり教えてくれず、関係ない子は首を突っ込むなと言われた。そうはいっても、ひどい時は泥酔して泣いているから、放ってはおけない。
ある日、柴田さんはこのみさんと同伴だった。今日はマリさんが休みだったので、わたしが支度待ちのヘルプにつくことに。
「なぜあいつも一緒に指名してるかわかるか? 好きでもなんでもないけどな」
はぁ? 嫌いな嬢をわざわざ指名料払って呼ぶの?
「このみに言えないこと、出来ないことを別な女にしたいと思ってだな。なんかのきっかけでマリが何を言っても怒らないし、いたぶられることを喜んでいたから、俺はあいつがそれで快感なら、そうしてやろうと思ったんだよ。むしろ俺は金払ってあいつを喜ばせてるんだよ、いい客だと思わない?」
えーと…。
柴田さん、SMクラブで遊んだほうがいいような気がする…。ていうか、そのへんはよくわからないけど、何か間違ってる気がする。
わたしはマリさんが何を言われたかそこで聞かされたのだけど、そりゃもう正気の沙汰とは思えない内容だった。いくらお水のプロの人でも心が壊れちゃう、ってなくらい。
一か月後、マリさんは店を辞めたらしい。柴田さんはわたしを後任という形で指名してきた。
試しに、どれだけつらいのか、しばらく頑張ってみたけど、数日でギブアップ。どっちみちわたしも本業が忙しくなってきたからやめる予定だったけど、もしそうじゃなかったら…。マリさんは、3年ほどあれに耐えてきたらしい。お水の鏡だわ。でも、キレることが出来なかったのも、ある意味では可哀相かもしれない。だから店をやめることでしか安定をはかれなかったのかも。
店側も、柴田さんが一番お金を落としてくれる上客なので、必要以上には助けたりしなかったのだと思う。ひどい話…。
わたしが辞めたあとは誰が頑張ってたんだろう。
文・二ノ宮さな…OL、キャバクラ嬢を経てライターに。広報誌からBL同人誌など幅広いジャンルを手がける。風水、タロット、ダウジングのプロフェッショナルでもある。ツイッターは@llsanachanll