「今年の3歳牝馬は史上最強レベル」という評価はいまや定説になっているが、その最たる圧巻パフォーマンスがいわずもがな、ウオッカが64年ぶり、史上3頭目の牝馬による戴冠という歴史的快挙を成し遂げた日本ダービーだ。その圧倒的強さには誰もが酔いしれた。そして、もはや「3歳最強馬」の称号に異を唱えるものは存在しまい。
が、しかし…。勝負は時の運というなかれ。蹄球炎のひと頓挫や馬インフルエンザ騒動など、マイナス要素を差し引いても、春の桜花賞に続き、宿敵に後塵を浴びた先の秋華賞は、ダービーで皐月賞馬やのちの菊花賞馬を蹴散らしたウオッカにとっては屈辱以外の何ものでもなかった。
ここで3度、軍門に下れば対スカーレット戦は1勝3敗の大汚名。あろうことか、年度代表馬は夢のまた夢。歴史的最強3歳牝馬が、「最優秀3歳牝馬」のタイトルすら逃す前代未聞の珍現象が起こりうる可能性もある。
秋華賞後、一時はJC挑戦という胸躍る野望を抱いていた角居師に、「女王杯へいく」と鶴のひと声で、ここへの参戦をチョイスした谷水オーナーにすべての思いが凝縮されている。
「1度のレースは何回もの追い切りにも匹敵する。もし、ウオッカが負けるとしたらそこ」と秋華賞前、こう語っていた松田国師の分析は皮肉にもズバリと的中。が、1度レースに使われたウオッカの状態は「肉体的にも、精神的にも張り詰めてきた。春のダービーのあのころに近づいている」と角居師が驚くほどの激変ぶりを見せた。
加えて、「京都外回りの2200mはウオッカ“らしさ”を出せる得意な土俵」とあれば、「“落ち着いていました”という乗り役からの一番ほしい言葉が聞けた。秋3走目、ピークを迎えた」(松田国師)と豪語するライバルはもちろん、もはや牝馬には敵はいない。
究極の純度まで磨き込まれた強烈ウオッカが全国一千万人の競馬ファンを再び酔わせる。