ディープスカイについて聞かれた時の昆調教師は自信満々、遠くを見つめながら重圧をしっかり受け止めて語る感じだが、ローレルゲレイロの時はひと味違う。
今、まさに開けられようとしている箱が、自分だけがびっくり箱だと知っている。そんな様子でいたずらっぽく笑みを浮かべながら、こう言った。
「流れはこの馬に向くんじゃないかな。良馬場でやれればチャンスは十分ある」
年度代表馬ウオッカに挑戦状を叩きつけるディープスカイ。ダービー馬2頭の頂上決戦に大きな注目が集まる中、そのスキを突こうとしているのがゲレイロだ。
「あの2頭が注目されて、実際、競馬もマークし合う展開になるでしょう。その点、こちらは気楽な立場だし、マイペースで先行できる。逃げ切った高松宮記念でも分かる通り、自分の競馬ができればとにかくしぶとい。それに、今の東京は先行有利だからね。ダービーがそうだったように」
昆調教師には、あれよあれよと逃げ切る姿が浮かんでいるようだ。しかも、鞍上は藤田騎手。彼がハナを主張すれば、誰も競らないという不思議な存在感を持つジョッキーで、これも強い味方になる。
デキも抜群にいい。3日の追い切りは栗東坂路で800メートル54秒4、ラスト1F12秒6。いつも時計の出るタイプとしては物足りない感もあるが、実はここに陣営の工夫がある。
「いつでも一生懸命走るから、直前追いは軽めにするよう藤田からアドバイスをもらった。それを実践し始めて、より安定感が出てきた」と平岩厩務員はうなずいた。
高松宮記念から間隔を取ったのも「骨折明けでデキの悪かった昨年のスワンSで2着したように、久々の方が走るから」と昆調教師。すべては青写真通りにきている。
師にとって、ゲレイロは厩舎の繁栄の礎を築いてくれた大切な馬。思い入れはディープと同じ、いやそれ以上かもしれない。「ゲレイロもGI馬だからね。こちらも能力はあるんだよ」。2頭使いは人気薄を狙え。まさにこの格言がハマるパターンだ。