背景には“ドル箱”である羽田の国内線離発着枠をめぐる各社の思惑がある。この枠はJALが1日184.5枠(出発または到着のみは0.5枠)でシェアは40%と最多。ANAは172.5枠で37.4%。スカイマークが36枠で7.8%と続く。しかしANAは新規航空3社(ソラシドエア、エア・ドウ、スターフライヤー)と共同運航しており、これを合算すると52.2%に達してJALを上回る。
一方、スカイマークがJALとコードシェアした場合は47.8%と、ANA連合に肉薄する。
「自らの牙城が脅かされると危機感を募らせたANAに自民党運輸族が応援団を買って出た。だからこそスカイマークの計画をぶち壊しそうな大臣発言が飛び出すなど騒ぎが大きくなった」と関係者は絵解きする。
自民党の運輸族がANAの応援団になった理由は単純明快だ。経営破綻したJAL再生は民主党政権下の数少ない成功例である。そのJALがスカイマークの後ろ盾となってANAの牙城を脅かすこと自体、彼らの論理では「許しがたい暴挙」なのだ。
それにしても来年3月期で136億円の最終赤字を見込み、監査法人から「重要な不確実性が認められる」と指摘されたスカイマークが、なぜJALにすがったのか−−。
西久保慎一社長は格安航空会社(LCC)のエアアジアやANAから資本参加による支援策があったことを明らかにしている。ところがJALは資本参加せず、あくまでもコードシェアにとどめる。一時国有化から再上場にこぎ着いたJALは経営計画の最終年度となる2016年度まで新規投資や路線計画などで国土交通省の監視対象。その“縛り”があることからJALは資本参加まで踏み込まず、監視の対象とならない羽田−新千歳、羽田−那覇路線など36路線をコードシェアしたい考えのようだ。
これを踏まえてスカイマークはJALに座席の2割を提供することで、年間80億円の増収効果を見込む。経営危機に陥った同社にはJALの存在が頼もしく映るはずだ。
「世間の関心はJALとのコードシェアに向いていますが、スカイマークには深刻な“お家の事情”がある。欧州のエアバスから契約解除で法外な違約金を求められており、下手すると破綻しかねない。シタタカな西久保社長のこと、JALを駆け込み寺にすることで交渉を有利に進めようとの魂胆があったとしても驚きません」(航空アナリスト)
これには多少の説明が要る。スカイマークは今年の夏、経営不振を理由にエアバス社から既に発注した世界最大の大型旅客機『A380』6機のキャンセルを通告された揚げ句、違約金760億円の支払いを要求された。この金額自体、赤字塗れの同社には到底払えるわけがない。交渉を重ねた末に違約金200億円前後を支払うことで大筋合意したとされるが、まだ解決に至っていない。
一方、蛇ににらまれた同社とは対照的にJALはエアバスから『A350』を31機導入することが確定している上、さらに25機を発注している。締めて56機調達するJALはエアバスにとっては上得意先である。
スカイマークが、そのJALを駆け込み寺にするのだ。「JALの口利き次第では違約金がチャラになるのではないか」と西久保社長が期待を膨らませたとしても不思議ではあるまい。
意外に思うかもしれないが、JALとスカイマークは2005年4月から1年間、羽田-関西空港間でコードシェアした実績があり、翌'06年4〜5月にも羽田-神戸間でも実施したことがある。これに対し、スカイマークとANAはコードシェアの実績がない。
「もしANAサイドが巻き返してスカイマークとコードシェアすれば、ANA連合のシェアは60%に拡大する。JAL(40%)との差は決定的になるだけに運輸族の応援団も、そこまでは介入しづらい。そこまで読んでJALに抱きついたとすれば、西久保社長は相当のタマというしかありません」(前出・アナリスト)
整備不良で国会に呼び出されたかと思うと、ミニスカートの制服導入で物議を醸すなど、ナルホド“風雲児”の異名を取る西久保社長の面目躍如というべきか。