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西田隆維の『映画今昔物語』 第3幕「もじろうが“トチろう”になったデビュー作」

 <今日のテーマ>「未来の大物! 西田隆維はトチリ王」

 今回のデビュー作で私は『もじろう』を演じたハズですが、見事にトチリを連発。ここまで来ると、「将来 大物になるのでは−−」と言うほど、大それた演技(ではなく本気のトチリでしたが)を披露し、場内の失笑…いや笑いにも似た「おい、あいつ大丈夫か−−」の苦笑を取りました(冷汗)。今回は、私のデビュー作、失敗談を中心に綴ります。

 私演じる『もじろう』は『くろう』というパートナーを持つ妖精で(台本上では)二人は一心同体 …のような役でしたが実際(舞台上で)は恐ろしいほど別々の妖精になってしまいました。何しろ『くろう』を演じた和尚こと松田好太郎さんは機敏で演技も上手。方や私はトチるし、演技もぎこちない…どう見ても一心同体には見えないのです。
 まあ、それはいいとして(実際は良くないのですが)、この妖精コンビは『もじくろ』とも呼ばれており、数千年前から現在まで地球上に存在している「石」「木」「土」などに宿っているのです。つまり『もじくろ』は地球誕生から生き続けている妖精なのです。
 現世…つまり、今生きている人には『もじくろ』の姿は見えないのです(が、私は180センチもあり“見えない妖精”の設定は無理があり過ぎ。見えまくりです…監督、冗談ですよ!)。ただ、主人公『夢二』(加藤隼平さん)に恋焦がれる『榛名(はるな)』(更崎由奈さん)は特別、見る事が出来、時として苦悩している『榛名』の前に現れ、彼女を激励するのです。
 勿論、『くろう』コンビ最大の任務(大げさでした。すみません)は『榛名』と『夢二』の恋を成就させる事。『榛名』が助けを求めている時に登場するウルトラマンのような役…では一切、ありません。彼女の一挙手一投足を影ながら見て、“いざっ”と言う時に現れ、彼女に的確なアドバイスを送る大正版ストーカー(話の設定は大正3年)…ウソウソ、榛名の応援団です。中井由梨子監督、怒らないでください。僕なりの「演出」ですから−−下手ですか、やっぱり…。調子に乗っていました。
 さて、前振りはこれ位にして(長いわい!)私演じた『もじろう』の失敗談をタップリとご紹介致します。

 まず、初日。昼公演は、緊張感150%で何とか「ごまかせました」(でしょうか、監督)が、問題は夜公演。唯一の単体セリフ(私だけのセリフ)を見事、飛ばしてしまいました。
 声を張りテンションを上げていくシーンで私は「…」。素晴らしく14文字のセリフを綺麗に忘れてしまいました。ここで本来、役者なら「それっぽいセリフ」を発し、場面を取り繕うものですが『もじろう』君は現世では誰にも見えない事を理由に、その場からフェードアウト。舞台に立っているのは、単なる大男・西田隆維になってしまいました。
 完全なるフリーズ化した西田は、まっすぐ前を見た状態で眼だけ動かし「一心同体」であるはずの『くろう』にアイコンタクト。彼に助けを求めたのですがこの時、私は『もじろう』でなく現世の誰でも確認出来る「人間・西田」となっていたのです。『くろう』は当然、西田を無視…というか、私には『くろう』が見えないハズなのですが、ね。
 このままだと、舞台が終わってしまう…「空白の一日」ならぬ「空白の時間」がカウントされ始めたその時、さすがは一心同体。『くろう』君が加藤好太郎さんに変身して、見事フォロー。彼の好アシストにより、その場をクリアしました(…って言うか、クリアしてくれました)。ただ、「人間・西田」は硬直したままで、脂汗ダラダラ。次の出番が怖くなっていました。
 そして、思いもよらぬ惨事が三日目に起こりました。
 オープニングで『もじくろ』は、ダンスをするシーンがあるのです。そのダンス中、私の軽やかでない踊りが災いし、舞台設定の「瓢箪(ひょうたん)」に私の身体が当たってしまったのです。
 さすがにこれにはビビりました。まさか、そのまま放置していく訳にはいかないでしょう。次のシーンで舞台上に「デーン」と瓢箪が横たわっていたら、一大事です。
私は素早く回収を試みたのですが、何とその瞬間、あろうことか「瓢箪が木端微塵」に…私が踏んじゃいました…。
 とはいえ、三日間で五公演踏んだ(演じた)経験(なのか、果たして)は伊達ではありません。『もじろう』は余裕ぶっこいて、次のシーンに一見、「これがシナリオ」を彷彿させる動きを展開。フツーに箒(ほうき)とチリトリを持って舞台に現れました…っていうのはオーバーで実は、箒とチリトリを持って登場する場面だったのです。こういった背景があったから冷静に動けたという見方も出来ますが…。この場は、箒とチリトリを巧みに使いこなし(?)、事なきを得ました。

 ところが、です。「人間(…じゃなかった妖精)、油断は禁物」とはよく言ったモノ。瓢箪の残骸は全て片付けたハズだったのに、ドセンターに無いはずのシロモノ(残骸)があるではないですか−−それも、沢山(一体、何を掃除していたんだ俺は!)。これには、ビックリしまいた。そのおかげで、「健忘症」となった私は「これは、どうしたものかな?」と頭の中が真っ白。条件反射でその残骸を拾い手の中に…。が、次は大きな赤い布を持つシーンです。これはもう、冷や汗500%。
 私は、何も考える事が出来ず、赤ちゃんに「先祖還り」し、無意識に口の中へ残骸を放り込みました。
 今、書いたように「先祖還り」したため、すっかり「赤ちゃん」化した『もじろう』(ならぬ「西田隆維」)は、口の中で残骸を留めておく事は不可能。数ある残骸の殆どを胃袋の中へ落とし込んでしまいました。
 胃の中に陶器が落ちた瞬間、我に返った私はそのまま又、フリーズ。「西田隆維」になってしまい、しばし『もじろう』には戻れませんでした。
 こうして大なり小なり様々なハプニングを越えて四日間八公演を無事、踏破しました。
 お客さんと我々・役者(私も含んでいいのでしょうか? 監督)の息遣いを感じる事の出来る「ライブ」に私は高揚を覚え、今度のハプニングは「トラブル」では無く「アドリブ」で披露したいと実感しました。いい勉強になってよかったです。全ての皆様に感謝しております。「有難うございました」。
 ちなみに『もじろう』は『榛名』をバックアップするのでは無く、『西田隆維』にフェードバックさせる役回りをしてしたような…。

《キャスト》
竹久夢二=加藤隼平
榛名=更崎由奈
生馬=門倉学、田邉準人
青児=堤隆博、安澄純
蘭童=五十嵐山人、中山裕康
龍=松山拓郎、湯田洋平
秋声=池鉄人
桜井秀子=井上真菜、四元綾加
岸たまき=藤村容子
さくらぎ=青柳加代子、糸満綾
しづか=西田沙織、阿部美保
もじろう=西田隆維
くろう=松田好太郎
あかり=中山瑞穂
ひかり=井田雅子
天王寺和肇=板垣敬嗣
常盤須賀子=佐藤あいね
斉藤為次=渋谷利喜、野木龍史
作・演出=中井由梨子
劇場=ザムザ阿佐谷

<プロフィール>
 西田隆維【にしだ たかゆき】 1977年4月26日生 180センチ 60.5キロ
 陸上超距離選手として駒澤大→ エスビー食品→JALグランドサービスで活躍。駒大時代は4年連続「箱根駅伝」に出場、4年時の00年には9区で区間新を樹立。駒大初優勝に大きく貢献する。01年、別府大分毎日マラソンで優勝、同年開催された『エドモントン世界陸上』日本代表に選出される(結果は9位)。
 09年2月、現役を引退、俳優に転向する。10年5月、舞台『夢二』(もじろう役)でデビュー。ランニングチーム『Air Run Tokyo』のコーチも務めている。  

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