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やくみつるの「シネマ小言主義」 テレビドラマ制作現場のお国事情『テルアビブ・オン・ファイア』

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提供:週刊実話

 エルサレムをめぐるアラブとユダヤには、日韓とは比べようもないほど根深い敵対の歴史があります。たとえ世界中から紛争が消えても最後までいがみ合っていそうな両者。しかし、実際はイスラエル占領地区にもパレスチナ人は住み続けていて、銃を突きつけられながら検問所を通って職場に出かけるのが日常だということが本作から分かります。

 そんな中東の現実をコメディーにした映画なのですが、いかんせん我々、日本人は民族対立の根っこの部分が分かっていない。だから、皮肉やユーモアが通じず、映画の狙いほどは笑えません。それならいっそ、かの地のテレビドラマと、その制作事情を垣間見られる映画と割り切ってはいかがでしょう。

 気の弱そうなパレスチナ人青年の主人公サラームは、叔父さんのコネで、人気テレビドラマの現場に言語指導のスタッフとして潜り込んでいます。劇中劇であるドラマは、女スパイが暗躍しつつ、禁断の恋も盛り込まれた政治サスペンスもの。大げさな演出やクサい台詞が満載ですが、中東のご婦人方は「ロマンチックだわ♥」と夢中な様子。そこにパレスチナとイスラエルの境はなさそうです。

 ひょんなことから、素人同然のサラームが脚本家の1人に抜擢されることも驚きなら、筋書きや結末に周囲が盛んに口を出し、自転車操業のように脚本を書いて撮影が行われることにもビックリ。まるで三谷幸喜の映画『ラヂオの時間』のパレスチナ版です。

 主演女優が寝ている隣の部屋で脚本を書いたり、主人公の彼女がふらりと撮影現場に入ってきて、そのまま撮影を見学していたり…とにかくおおらかというか、警備までユルい。こんな作り方をしているの? と、自分の興味はそこに集中しました。

 それでも、「検問所の日々」の閉塞感は十分に伝わってきます。今年はベルリンの壁崩壊から30年ですが、世界中で国境の壁は造られ続けています。世界は必ずしもいい方向へ進化していませんね。

 辺境地に行くのが趣味なので、一般観光客として通過するだけですが、検問所は何度経験しても嫌なもんです。カメラや望遠鏡の類いは鞄の中にしまい、あまり緊張した顔をしても目を付けられるので、わざとのんきな風情を出すようにしますが、現地ガイドが同行しても何時間も待たされることも。

 ところで、テルアビブだとどうしても赤軍派の事件を連想してしまいます。邦題は「中東ドラマの時間」など、のんきなトーンにした方がいっそよかったかも?

画像提供元:(c)_Samsa Film - TS Productions - Lama Films - Films From There - Artémis Productions C623

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■テルアビブ・オン・ファイア
監督/サメフ・ゾアビ 出演/カイス・ナシェフ、ルブナ・アザバル、ヤニフ・ビトン 配給/アット エンタテインメント 11月22日(金)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。
■エルサレムに住むパレスチナ人青年のサラームは、人気ドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」の制作現場で言語指導として働いているが、撮影所に通うためには検問所を通らなくてはならない。ある日、妻がドラマの大ファンだという検問所の主任アッシから脚本のアイデアをもらったサラームは、その案が認められて脚本家へと出世する。しかし、ドラマが終盤に近付くと、結末をめぐって、アッシ(イスラエル)と制作陣(パレスチナ)の間で板挟みになり、窮地に立たされる。

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漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
『情報ライブ ミヤネ屋』(日本テレビ系)レギュラー出演中

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