「延命山 大聖寺 大秘殿」といい、「大洞窟延命十界めぐり」という胎内巡りができる寺で「お料理の神様」の大壁画を祀るという。
胎内巡りとは仏の胎内に見立てた暗い地下霊場や洞窟内を歩く参拝方式で、一般的に洞窟内には仏像などが安置してあったり、六道地獄絵図が描かれていることが多い。俗世から切り離された静かな薄暗いトンネルの中で五感を研ぎ澄まし、仏の姿や地獄絵図を拝観して己を振り返る…などというのが目的だ。
三谷温泉街に続く坂を上がると「大秘殿」と書かれた大きな看板が設置された仏塔型の屋根を持った建物が見えてくる。参拝受付窓口もあるその建物の横には観音立像がいくつも立ち並び、前には朱塗りの鳥居が立っている。鳥居から洞窟入り口に続く短い参堂には信楽焼きのタヌキがずらりと並び、まるで参拝者を胎内巡りに誘っているかのようだ。
洞窟といってもコンクリート製の半地下室で、入り口の壁面には無数の金色の鬼神の面と大きな般若面が貼り付けられて異様な雰囲気をかもし出している。
窓口で拝観料1000円を納め、洞窟内に入ると、三途の川に見立ててあるのか川もあり、外に比べてひんやり涼しい。賽の河原の子供を救うという大小さまざまな地蔵が不規則に置かれ、その合間に意表を突いて樹脂でできたガンダーラ美術系の仏頭や妖艶な半裸身の女神像が配置されているのがなんとも不思議な感覚だ。その地蔵の背後の壁には入り口と同じ鬼神の面がいくつも貼り付けられており、不気味な情景を作り上げている。
地蔵の次は閻魔王と地獄の様子が現代芸術風の彫像で表現されていた。薄衣をまとってポーズを取る女性の鬼や、亡者とおぼしき横たわる裸体像は、鬼の角や血がなければ公園に設置されていても違和感のない風体である。
ここには如来や観音や羅漢など二百点を超えるさまざまな仏像と壁画があり、巣鴨でおなじみの「刺抜き地蔵」も安置されている。ただしここの刺抜き地蔵の横には頭を抱えて腹から血を流してもだえ苦しみながら横たわっているリアルな樹脂製の裸像が置かれている。地蔵に刺を抜いてもらった人なのか、腹に刺さった刺を抜いた瞬間の苦痛を表現している様子に見える。
今まで見てきたお寺の胎内巡りと異なり、モダンというか既成概念が覆される表現法なのだ。
その上、入洞した時からずっとがやがやと騒がしい声が聞こえている。洞内に設置されたスピーカーから大音量でラジオが流れているのだ。どうやら「大秘殿」がラジオで紹介された時の録音を繰り返し流している様子。俗世から切り離された静かな洞内で悟りを開く…という雰囲気ではない。
また生殖器崇拝の男根、女陰をかたどったリアルな歓喜像がやけに多いのもこの寺の特徴である。巨大な男根像の両脇に金剛力士を配置した「珍宝力士」の像は精力剤のパッケージのようだ。「大歓喜四十八尊」のコーナーなどは3mほどの男根が地面から何本も生えた周囲に四十八手の体位をレリーフした石版が配置され、レリーフの合間に菩薩像やガンダーラ仏頭が所狭しと並べられている。
壁には裸の男女が絡み合い、人身鳥面の怪物に攻められている様子が描かれており、壁面の一角に作られた小窓から料理の祖神として日本書紀に登場する「磐鹿六雁命(いわかむつかりのみこと)」の大壁画が拝観できる仕組みになっている。
「お料理の神様の総本山」を謳う寺ではあるが、女性には赤面するシロモノがふんだんに安置されている空間だ。
洞窟の距離は約300m。平凡に安置されている仏像の合間に奇抜な像が並ぶ変化に飛んだ安置方法は信仰の対象としての荘厳さには欠けるかもしれないが、見る人を飽きさせないことだろう。
節電が叫ばれるこの夏、エコで涼しい不思議な胎内巡りに行ってみてははいかがだろうか。
(MOMOKO)