駆け足で頂点に上り詰めた後、スズカフェニックスにはしばしの休息が与えられた。
「高松宮記念の後は放牧に出さず厩舎でゆっくりさせていた。一度体を完全に緩めてじっくり立て直した」と込山助手は振り返った。年始の京都金杯から高松宮記念まで一気に4走。その疲れをほぐすことからGI連覇の道は始まった。
順調そのものだ。23日の1週前追い切りは栗東坂路で800m51秒1。全体時計の速さもさることながら、短距離馬の切れ味を示すラスト400mが24秒8→12秒3と実に優秀だった。
「ケイコではテンションが上がらずいいスピードを見せてくれている。レースの週にやれば完全に戦闘モードに入るでしょう。前走を上回る状態に持っていけると思う」
その前走・高松宮記念はポテンシャルの高さをまざまざと見せつけた。初のGI挑戦が初の1200m、末脚勝負に不利な小回り中京、さらに苦手の道悪と嫌な条件がそろっていたが、中団から豪快な末脚で差し切る横綱相撲で完勝した。
「改めてこの馬の上がり3Fの強さを見せてくれた。今、上がり3Fだけの競馬ならどの馬にも負けない」
その持ち味を最大限引き出せるのは東京の長い直線にほかならない。実際、1月の東京新聞杯でも33秒3の末脚で快勝している。
そしてもうひとつ「チーム・フェニックス」にとって東京のGIには特別の思いがある。98年秋の天皇賞で非業の死を遂げたサイレンススズカ。あの名馬と父サンデーサイレンス、馬主、調教師、生産牧場、そして鞍上まですべて同じなのだ。美しい栗毛の肌はまるで生き写しにも思える。
悪夢を払しょくする。9年越しの思いが実ろうとしている。「千二を使った後のマイル、折り合いの不安は少しだけあるけど、まともならいい結果を出せる」
華麗な逃げで魅了したサイレンススズカとただひとつ違う、鋭い切れ味。それを武器にフェニックスはマイル王へと舞い上がる。