「AIJは世間的な知名度こそないものの、関係者の間では、日本一の運用実績を誇る投資顧問として知られていた。これをテコに積極的な営業攻勢をかけて顧客の預かり資産を拡大したのですが、このご時勢だけに『本当に儲かっているのか』と訝る向きは少なくなかった。今になって悔しがっても後の祭りですが…」(企業年金関係者)
AIJは1989年設立の独立系投資顧問。浅川和彦社長は野村證券で熊本支店長などを務めた後、外資系に転じ、8年前にAIJの社長に就いた経歴を持つ。
同社はこの5、6年「高収益」をセールスポイントに積極的な営業活動を展開しており、厚生労働省が2月28日に公表した2010年度末時点で委託残高があった厚生年金基金や確定給付企業年金は、地域の中小企業などを中心に84基金。金額はトータル1852億6500万円で、加入者と受給者の合計は約88万人に上る。
問題表面化の直前まで続けた営業活動で掻き集めた金は、優に2100億円と言われる。そのほとんどを子会社のアイティーエム証券を経由してケイマン諸島のファンドに移した後、私募投資信託を通じてデリバティブ取引などに注ぎ込んだとされている。
しかし、証券取引等監視委員会のこれまでの調査に対し、浅川社長は「資金がどう運用されていたのか細かく把握していない」と釈明したとされる。
「社長が実態を知らないなんてあり得ません。リスクの高い商品に大枚を注ぎ込んで大損を被ったのか、それとも年金運用は名目で、他の目的に流用したのか。もし後者であれば史上空前の詐欺事件に発展するし、前者であれば舞台がオリンパス事件と重なり合う。だからこそ東京地検、警視庁ともに重大な関心を寄せているのです」(社会部記者)
オリンパスの粉飾決算事件では、旧経営陣だけでなく、飛ばしの指南役だった中川昭夫容疑者、横尾宣政容疑者などの野村證券OBが逮捕されている。ケイマン諸島を舞台にしたマネー錬金術に「証券マンとして培った裏ワザの限りを尽くした」(関係者)からだが、実は中川容疑者とAIJの浅川社長は「野村時代だけでなく、転出した外資系証券でも上司と部下の間柄。むろん、2歳若い浅川社長が部下だった」(同)という間柄にある。