「米国に留学した小倉氏は、同社を業界トップに育てた故小倉昌男氏の長男。2年前に事業会社であるヤマト運輸の社長に就き、これをステップに遠からず持ち株会社の社長になるのは規定路線とされていた。それが突如として1年以上に及ぶ海外留学です。MBA(経営学修士)を取得するのが目的とされるが、短期間で目的を達成するのは極めて難しいでしょう。その間、日進月歩で進む流通ビジネスの実務から遠ざかるため、たとえMBAを取得して帰国したとしても“浦島太郎”ですよ」(業界紙記者)
このため業界には「留学に名を借りた追放」という観測が飛び交っている。
御曹司が事業会社、ヤマト運輸の社長に就いたのは2年前だが、この時点では同時に発足した純粋持ち株会社(ヤマトHD)の取締役を兼任していた。ところが後にHDの取締役を外れて執行役員に降格、事業会社の社長も追われている。事実上、「社長の器ではない」との烙印を押されたようなもの。
「有富慶二会長〜瀬戸馨社長コンビは創業家の長男を追放するのは得策ではないと判断したのか、今年の春からはHDの専務執行役員として社長を補佐する立場に据えた。それから半年後に米国留学ですからね。米国へ追放したと言った方が分かりやすい」(業界関係者)
現に、ヤマトHDは小倉ジュニアの留学先を明らかにしていない。取材に対しても答えていない。
「2年前の6月にカリスマ経営者だった昌男さんが死去して以来、ヤマト運輸は御曹司を担ぐ勢力と、反御曹司派が壮絶な派閥抗争を展開した。その結果、御曹司派の重鎮が失脚したことで遂に“大将”が自らにケジメをつけざるを得なかったのではないか」(前出・業界紙記者)
この派閥抗争の渦中で、御曹司を標的にした怪文書が乱れ飛んだ。内容は女性問題や人間関係など。それだけ派閥抗争がドロ沼状態だったかを物語る。御曹司が「海外逃亡」したことで反御曹司派は含み笑いをこらえるのに懸命かも知れない。だが、業界関係者はこんな冷ややかな感想を漏らす。
「HDの中核を担うヤマト運輸の木川真社長はみずほコーポレート銀行の出身。銀行家だから手腕は手堅いにせよ、HDの代表権も持っているため生え抜き社員の目にはテイのいい銀行管理と映る。しかも有富会長には来年にも辞任するとの観測があり、そうなれば木川さんの影響力が以前にも増して強まる。派閥抗争を生きがいにしてきたような面々が、この事態にどこまでガマンできるか、見ものです」
御曹司の米国留学は、ことによると新たな権力抗争勃発の不吉な前触れなのかも知れない。