午前3時。いつも女の子たちと仕事終わりに行く新宿西口の居酒屋にて、突然、恵美ちゃんから発表された“彼氏できました宣言”。
「おお、やっとか〜」「おめでとう!」とその場にいた女の子たちが盛り上がる。そういえば、恵美ちゃんっていつから彼氏いないんだっけ? と、おもわず古い記憶を呼び戻さなければいけないくらい、長い間、彼氏がいなかった気がする。恵美ちゃんが今のお店に入店して2年ほどになるが、少なくとも、その期間に彼氏がいたという話は聞いたことがない。
「で、その彼氏って誰? 私たちも知ってるお客さん?」
「みんなが知ってるかどうかはわからないんですけど、一応、お客さんです」
「ええ〜! 見たいから紹介してよ!」
「…実は、明日一緒に同伴する予定なんです」
「そうなの? じゃあ、明日出勤のメンバーは全員見れるってわけか!」
長い間、おひとりさま生活を送っていた恵美ちゃんを落としたお客様って、一体どんな人なんだ? という期待からか、その日は珍しく翌日の出勤が楽しみで仕方なかった。
翌日になって、恵美ちゃんが出勤してくると、その隣を歩く男性に女の子全員の目が釘付けになった。おお、なかなかの紳士!
「いいじゃん、素敵なおじさまって感じじゃない?」
なんて、私たちがロッカールームではしゃいでいると、ボーイの男の子からヘルプとして恵美ちゃんの席へ呼ばれた。噂の彼とお話しできるチャンスがきた! と、意気揚々とふたりが座るボックスへと向かう。
「失礼しま…んっ?」
隣に座ろうとした瞬間、ものすごい激臭が鼻をつく。何か腐った物でも落ちてるんじゃないかと足元を見てみるが、もちろんそんな物が落ちているはずもない。
そして、冷静になってようやく匂いの原因に気が付いた。…この匂いは、恵美ちゃんの彼氏であるこの男性から放たれる、強烈な加齢臭だということに。
「私ってさ、人一倍のファザコンなんだよね。だから彼氏にもパパそっくりな人を求めちゃうみたい!」
こそっと耳元でそう教えてくれた恵美ちゃん。
パパそっくりの人が好きって女の子はよくいるけど、果たして、加齢臭までそっくりな人を見つける必要はあったのだろうか…。そう思い涙目になりながらも、私はなんとかその席のヘルプをやり終えることができた。ああ、辛かった。
取材・構成/LISA
アパレル企業での販売・営業、ホステス、パーティーレセプタントを経て、会話術のノウハウをいちから学ぶ。ファッションや恋愛心理に関する連載コラムをはじめ、エッセイや小説、メディア取材など幅広い分野で活動中。
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