もちろん、女同士の僻みや妬みもあるけど、それ以上に私をイライラさせるのは、他の誰でもない、山下さんという、お客さん。人一倍、プライドが高くて、自分に自信を持っている私からすれば、思い通りに落ちてくれない山下さんに苛立ちばかり感じていた。だからこそ、絶対に落としてみせると必死にもなっていたんだと思う。
“いつも定型文の営業メール、ありがとうね。”
嫌味たっぷりな山下さんからのメールの返事を見て、思わず、携帯をベッドに投げつけた。ああ〜、本当に頭にくる! 何をしても、どうしても、今までと同じようにはいかない山下さんに、ここ数週間は振り回されっぱなしだった。普通の女の子だったら、こんな扱いが続けば、時間の無駄だと思って、諦めるんだろうな…。私もいい加減、諦めちゃえばいいのかもしれないけど、それはそれで、何だか悔しい。
そう思いながら、この嫌味たっぷりなメールに何て返信しようかと考えているとき、ふと、山下さんとしばらく会ってないことに気付いた。嫌味しか言わなくても、なんだかんだで、毎日、連絡を取り合ってたからかな。そんなに会ってない感じもしないんだよね。でも、その事実に気付いた瞬間、何だか、ちょっとさみしい感じもした。
「百合ちゃん、3番で…」
フリーのお客さんについていた私は、ボーイに呼ばれて、そのまま3番テーブルへと向かった。
「あれ? …山下さんじゃん!」
「何で、お前なんだよ〜! …ちょっと、女の子チェンジ!」
「もう〜、久しぶりに会ってその扱いはないよ〜」
「あのね、俺は可愛い女の子と楽しくお酒が飲みたいの」
「あいにく、1番可愛い女の子が私なんです」
うるせーよと言いながら、ちょっと笑った山下さんに、なぜか、キュンとしてた。…あれ? 何でときめいちゃってんだろ? もしかして、落とそうと必死になってるうちに、気付いたら私が追いかけて落とされていたの?
その瞬間に、プライドなんてどうでもよくなっちゃった。
取材・構成/LISA
アパレル企業での販売・営業、ホステス、パーティーレセプタントを経て、会話術のノウハウをいちから学ぶ。その後、これまでの経験を活かすため、フリーランスへ転身。ファッションや恋愛心理に関する連載コラムをはじめ、エッセイや小説、メディア取材など幅広い分野で活動中。
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