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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第110回 おカネが凍り付く日本

 現在の日本は、史上空前の「カネ余り」状態にある。
 「いや、自分はカネがない。カネ余りなど、どこの世界の話だ」
 という感想を抱いた読者も少なくないと思うが、厳密には読者に不足しているのは「所得」である。所得とは、読者が生産したモノ、サービスという付加価値を、誰かが消費、投資として購入してくれなければ創出されない。
 銀行などの金融機関でおカネが凍り付き、民間企業などが借り入れず、消費や投資として支出しないからこそ、読者の所得が不足するのである。
 借りられず、使われないおカネが金融機関で「運用先(=貸出先)」がない形で固まってしまっている。これが、現在の日本が抱えるカネ余りという“問題”なのだ。

 運用先がないカネは、政府への貸出、つまりは国債に向かうしかない。結果、国債金利がゾッとする水準にまで下がってしまっている。
 政府の10年物国債金利、いわゆる「長期金利」は、本稿執筆時点で何と0.255%。毎日のように、史上最低を更新している。
 5年物国債金利は、1月13日についに「ゼロ」にまで下がってしまった。すでに、1年物国債などの短期国債では、カネを貸し付けた方が金利を支払う「マイナス金利」の状態に至っている。
 日本生命は、1月9日に貯蓄性が高い「一時払い終身保険」の保険料について、約1〜2%引き上げると発表した。長期金利があまりにも低下してしまい、国債の運用では十分な利回りを確保するのが難しくなっているためである。

 「財政破綻!」などと、識者と呼ばれる人々が叫び続けている我が国において、最も人気がある金融商品は何だろうか。
 株式か?
 はたまた先物か?
 いやいや、答えは「国債」であるという、バカバカしい状況になっているわけだ。
 現在、“世界最低金利国”の座を争い、長期金利0.21%のスイスと、0.255%の日本が、激しいデッドヒートを繰り広げている。何と、むなしい競争だろうか。
 「どちらの国が、よりお金が借りられないか?」
 そんな座を賭けて、日本とスイスが鍔迫り合いを演じているわけである。

 国内の銀行は預金を、生保は保険料を「運用」する、つまりは誰かに貸し付け、金利を稼ぐことが商売だ。金利収入が、彼らの「所得」になる。
 預金や保険料がどれだけ集まっても、それ自体が売り上げになるわけではないのである。
 現在の日本はデフレ(カネが借りられず、支出されない)に加え、日本銀行の国債保有が増えている。結果的に、金融市場において「国債が枯渇する」現象が発生している。
 国債の需給バランスが「需要過多」に傾いてしまい、国債価格が上昇、つまりは国債金利が低下しているのだ。

 市場は完全に「お金の借り手不足」あるいは「国債不足」の環境になっている。
 それにもかかわらず、政府は国債の新規発行額を今年度より4兆円余り少ない36兆8600億円とする、来年度予算を閣議決定した。
 政府が新規発行国債を減らすと、我が国の借り手不足に拍車がかかることになる。
 しかも、公共事業という「所得」を生み出す支出は、わずか100億円の増額(誤差レベルである)だ。
 同じく「所得」を生み出す介護報酬は、何と2.27%の引き下げ。介護報酬のマイナス改定は、約9年ぶりのこと。政府自ら、需要を削減しようとしている。

 おカネの「借り手」の多くは「需要」となる。お金が金融経済に向かう場合は、必ずしも需要にならないが、実体経済で「消費」または「投資(住宅投資、設備投資、公共投資のみ)」として使われれば、読者の所得を生みだす。
 所得とは「需要(消費+投資)」に対する支払いという意味を持つのである。
 需要が不足するデフレーションに苦しめられている日本において、政府が借り入れと需要を減らすとどうなるか。今年の日本経済が、デフレに舞い戻る確率がどんどん高まっている。

 別に、難しい話ではない。余計な先入観なしで、素直に、
 「なぜ、国債金利が最低どころか、マイナス金利(短期国債)になってしまっているのか?」
 「なぜ、生命保険の保険料が上がらざるを得ないのか?」
 を考えれば、誰でも「借り手不足」「国債不足」が原因であるとわかるはずだ。
 その次は、
 「なぜ、借り手不足なのか?」
 と、思考を進めれば、すぐに「需要が不足し、投資先がないから」という答えを導き出せる。
 需要が不足しているとは、要するにデフレーションである。デフレとは「貨幣現象」とやらではなく、「総需要の不足」が原因で発生する。

 現在の日本の問題が「国の借金で破綻する」や「国債が暴落する」ではなく、需要の不足であると理解すれば、即座に解決策を導き出せるはずだ。
 もちろん、政府が需要を創出すること。すなわち、国債発行と財政出動である。
 政府が需要を創出するために「新規発行国債」を拡大すれば、金融市場における極端な国債不足は解消に向かう。ようやく、金利は「正常化」することになるだろう。
 普通に考えれば、誰でも理解できる解決策に背を向け、政府は「プライマリーバランス(基礎的財政収支)黒字化」と、見当違いの目標目がけて突っ走っている。これで、日本経済がデフレに舞い戻らなければ、そちらの方が不思議というものである。

 安倍晋三政権は「国債不足」という現実を認め、国債発行増額と財政支出拡大という正しい方向に舵を切り直す必要がある。
 さもなければ、日本経済は再デフレ化し、総理お望みの“長期政権”とやらも、夢幻と終わることになるだろう。
 デフレには、いかなる総理大臣も勝てない。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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