そんな藤原が、初の著書「無駄なことを続けるために」を11月16日に出版。16〜25日には原宿ベースヤードトーキョーで「無駄づくり」展も開催する。無駄なものを作り発信し続ける藤原は、どのようなことを考え、どこを目指しているのだろう。話を聞いてきた。
――出版おめでとうございます。
藤原麻里菜(以下、藤原):ありがとうございます。
――「無駄づくり」を始めたきっかけを教えていただけますか?
藤原:「無駄づくり」として始めたのは、所属しているよしもとクリエイティブ・エージェンシーで持ちかけられた、YouTuberになるためのオーディション話がきっかけです。舞台でやるネタがびっくりするほどウケなくて、「自分がやりたいことは舞台でネタを見せることじゃない」という気がしてきた頃のことでした。
オーディションに持って行った企画は「家の中にあるものでピタゴラ装置を作る」というものだったんですが、実際に作ろうとすると、それだけでは難しくて。「だったら、ピタゴラ装置を中心にマシーンを作ろう」「便利なマシーンでは面白くないから、無駄なものを作ろう」と思いついて始めたのが「無駄づくり」です。
――もともと子ども時代から人を笑わせたり、何かを作ったりすることが好きだった?
藤原:好きでしたね。ものづくりを自己表現のひとつとして始めたのは中学時代からなんですが、幼少期から絵を描いたり親のパソコンをいじったりしていました。父がデザイナーなので、デザイン関連の本は家にありましたし、パソコンにはフォトショップやイラストレーターが入っていて。今思えばですが、自然とデザインに触れたり、ものを作ったりする環境には恵まれていたんだと思います。
人を笑わせるのも好きでしたし、お笑いを見るのも好きでした。高校時代には『あらびき団』(TBS系)をよく見ていましたね。芸人さんって、陰鬱とした性格の人も多いんだってことに気づいて。「私も自分のダメな部分を笑いに昇華させたい」と思ったのが、お笑い業界に入るきっかけでした。
――「Twitterでバーベキューとつぶかれるとわら人形に五寸釘を打ち付けられるマシーン」や「ヒモ貯金箱」のように、「こじらせ女子」や「陰キャ」といった雰囲気が感じられる作品が多く見られます。
藤原:日常生活で感じる、言葉にできない「モヤモヤ」を発明品につなげたらおもしろいんじゃないかなと思っているんです。実際に呪いたくなるほどBBQに誘われたいわけじゃなくても、ほんのり「モヤッ」とする瞬間ってあるじゃないですか。それを誇張し、具現化している感じですね。
――どこかしら「あるある」であることも、笑える理由ですよね。
藤原:笑えてもらえたらうれしいです。
――作品はもちろん、動画のシュールさも「無駄づくり」の特徴。何かこだわる理由はあるのでしょうか。
藤原:主役である発明品を一番面白く見せることを考えたら、シュールさに行き着きました。YouTuberって、どちらかというと「本人の人間性を前面に出した方が人気が出る」って言われているんです。でも、無駄づくりの場合、私は主役じゃないんですよね。前面に出したいのはマシーンによるおもしろさ。だから、私は動画で感情を出さないようにしています。アンドロイドのよう、というか。「目が死んでる」とか言われるんですけど(笑)
――以前、ネット記事で取り上げられた際、Twitterで堀江貴文さんに言及されました。今回、書籍の帯にもコピーで登場していますが、堀江さんのコメントによる変化は感じられましたか?
藤原:無駄づくりを見てくださる層に変化が生まれました。ビジネスに興味がある視聴者が増えたんです。「ただくだらないことをやっているだけの子じゃないらしい」と思ってもらえているみたいで。やっていることは、無駄なものを作ることなんですが。
――その後、堀江さんとお会いしたことは?
藤原:ないんです。でも、帯文をいただいて。うれしいです。
――今も1ヵ月に4本ペースで作っていらっしゃるそうですが、アイディアが浮かびやすいのはどのようなときですか?
藤原:もう、全然浮かばないんですよ。机に向かって、うんうん唸りながら考えています。ストックもないですし。
――修羅場感がありますね。
藤原:大変です(笑)でも、楽しいんですよ。私はひとつの物事のプロフェッショナルにはなれないんです。才能もそうですし、何より飽きちゃうので。だけど、無駄づくりは「何を作るか考える」「どうやって具現化できるのか考える」「手先をひたすら動かして作る」「動画を撮る」「編集する」など、多くのパーツに分かれているので、飽きないんですよね。今は「書く」ことも加わりましたが、どの工程も楽しくて。生きやすいスタイルを見つけられたなあと思っています。
――本の中にある「無駄なことを続けるためにこそ稼がねばならない」といった主張が印象的で、クレバーだなと感じました。
藤原:ありがとうございます。「無駄」と言ってはいますが、私には無駄づくりは必要で、続けていきたいことです。だからこそ、稼ぐことを貪欲に考えなければいけない。
はじめの3年間はバイトをしながら無駄づくりを続けていたんですが、お金を稼ぐためにバイトを増やすと、無駄づくりをする時間がなくなってしまい、結果的に続けられなくなってしまう。稼ぐことと向き合うのは、自分のためなんです。
私だけじゃなく、さまざまな人の「稼ぎ方」を本で紹介しています。いろんな形を知ってもらえるんじゃないかな。
――「稼ぐこと」も含め、藤原さんが無駄づくりを続けるために大切にされていることを詰め込んだ「無駄なことを続けるために」。どんな人に読んでもらいたいですか?
藤原:うーん……「モヤモヤしているものを抱えている人」でしょうか。会社員であってもいいし、バイトをしながら何かをしている人でもいいですし。
私は無駄づくりをすることで生きやすさを見つけられましたが、別に「好きを仕事に」と言いたいわけではないんですよね。「好きなこと」と考え始めると、「仕事にできる好きなことって何だ?」と悩み始める人も多い気がして。そうではなく、モヤモヤの解消方法のひとつの参考として、この本を読んでみていただけたらうれしいです。
――今後、無駄づくりを含め、藤原さんが目指したいことは何でしょうか。
藤原:無駄づくりで生きていけるところまで来たので、このまま行けるところまで行きたいですね。コンテンツもどんどん広げていきたいです。今年の6月には台湾での初個展を成功させることができたので、今後は、もっとワールドワイドに展開させていきたいな。
――アジアの次は欧米諸国とか。
藤原:そうですね。フランスとか。無駄づくりを世界にも発信していきたいです。
(インタビュー終わり)
インタビュー後の写真撮影では、発明品のひとつ「無VR」を装着してくれた。やっぱりシュールだ。大真面目に無駄なものを作り、笑いを届け続ける藤原。書籍の出版や個展など、今後の活動の広がりが楽しみな存在だ。
●書籍『無駄なことを続けるために〜ほどほどに暮らせる稼ぎ方〜』発売中
https://www.amazon.co.jp/dp/4847097319/
取材、写真、文/卯岡若菜