しかし、飯伏幸太はどんなことをされても諦めなかった。
決勝当日、ジェイはこの日、柴田勝頼を裏切ってバレットクラブ入りを果たしたばかりのKENTAも含めて、フルメンバーを率いて入場。KENTAはG1開幕戦で、飯伏と対戦し飯伏はこの試合で左足首を痛め敗れている。だが、レッドシューズ海野レフェリーが厳格な対応を見せて、バレットクラブ勢を控室に引き戻させてから試合はスタート。途中、唯一セコンドにつくことが許された外道も試合に介入したことから、控室に戻されている。セコンドがいなくなったとはいえ、飯伏同様、連敗スタートから連勝を築き上げ、決勝に進出したジェイの成長は著しいものがあり、インサイドワークに飯伏の立体的な技が封じられてしまう。試合が終盤になると、レフェリーが場外へ倒れた隙に再び外道が登場したが、これを乗り切ると、最後は渾身のカミゴェが決まりカウント3。飯伏が初優勝を飾った。
「みなさんで乾杯しましょう」
試合後、フラフラになりながら会見場に現れた飯伏は、乾杯用に置かれたビールを集まったマスコミやカメラマンに配り、自ら乾杯の音頭を取って一気飲み。余程嬉しかったのだろう。リング上ではあれだけ苦手としていたマイクで、「僕が言うことじゃない。でも僕に言う権利が回ってきたので言わせてもらいます。新日本プロレスをみんなで大きくしていきたいです」と自分の気持ちをハッキリと伝えて見せた。プロレスを広めたいという気持ちはデビューする前から全くブレていない。ただ昨年、棚橋弘至から「プロレス界を背負う覚悟はあるのか?」と突きつけられたことが、飯伏の気持ちに大きな変化をもたらせた。
「そうですね、僕の中でずっと覚悟はあったつもりだったんです。今こうやって振り返ると、あの時はそういうつもりだったんだなって。それが確信になったと、今は本当に覚悟しています。これからも変わらないです」
今シリーズ「諦めない」と言い続けることで、2年連続の決勝進出、そして初優勝を手に入れた。「諦めない」気持ちは棚橋もよく口にする言葉。飯伏の中で確信した「覚悟」は、かつて“エース”として新日本を背負っていく「覚悟」を持った棚橋からしっかりと引き継がれたと言ってもいい。翌日、飯伏は来年1.4東京ドーム大会のメインイベントのIWGPヘビー級王座への挑戦権利証を手に入れると、「G1で敗れたKENTA選手、EVIL選手とやって勝つ」ことを誓うとともに、1.5ドーム大会では「インターコンチネンタル王座に挑戦したい」と、二大タイトルへの連続挑戦をぶち上げた。これは今までの飯伏にはなかったこと。これを聞いて、公式戦で飯伏に敗れたIWGPヘビー級王者、オカダ・カズチカと、IWGPインターコンチネンタル王者、内藤哲也は黙ってないだろう。これが実現すれば、前代未聞のダブルドームは2日間観ざるを得なくなる。
「新日本プロレスは新しい世界に進みます!」
飯伏幸太が見せていく新日本の新たな世界を大いに期待したい。
(どら増田 / 写真 サイトー・ジュンヤ)