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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第93回 苛政は虎よりも猛なり

 '14年9月8日、内閣府から'14年4〜6月期のGDP成長率(改定値)が公表された。
 結果は、実質GDPで前期比1.8%減、年率換算で7.1%減であった。速報値段階では年率換算6.8%減だったため、下方修正されたことになる。
 実質GDP年率換算7.1%の減少とは、東日本大震災を挟んだ'11年1〜3月期(同6.9%減)を上回る落ち込みである。
 第二次安倍政権は、消費税を増税することで大震災をも上回る経済の失速をもたらしたわけだ。「苛政は虎よりも猛なり」という言葉を思い出した。
 特に、民間企業設備が対前期比2.5%減から5.1%減に大きく下方修正されたことは、衝撃的な事実である。

 財務省の法人統計で、運輸業や金融業の投資が低迷したことが判明し、今回のGDP統計に反映されたためだが、何となく、
 「速報値段階では東日本大震災時を上回るマイナスの数値を発表したくなかったのでは」
 と、勘ぐりたくなったのは、別に筆者だけではあるまい。

 設備投資同様に衝撃的だったのが、「在庫変動」の寄与度が1.0から1.4に上方修正「されてしまった」ことだ。実は、GDP統計上、在庫の増加は投資増の扱いになり、GDPを押し上げるのである。
 在庫変動の「寄与度」が1.4なので、在庫の増加によるGDPの押上げ効果がなかったと仮定すると、4〜6月期は年率換算でマイナス10%を上回る、凄まじいマイナス成長になったことになる。
 さらに、第2四半期に在庫が大幅に増加したということは、第3四半期以降に間違いなく在庫の減少、つまりは生産調整が行われることになる。生産調整で「生産」が減ると、GDP(国内総生産)は押し下げられる。

 前回の消費税増税、すなわち'97年の増税時の「本当の落ち込み」は、消費税増税後に積み上がった在庫が、同年の9月以降に「減り続ける」ことで始まった(アジア通貨危機のせいではない)。
 今回の消費税増税の場合も、'97年時と全く同じパターンを辿り、
 「在庫増⇒生産調整⇒所得減少⇒在庫増⇒生産調整」
 という、縮小のスパイラル(渦巻きを描くような状態でブレーキが掛からない様子のこと)を進んでいる可能性が高いのだ。
 しかも、今回は'97年時とは異なり、国民の実質賃金が下落している状況において、生産調整による所得減少が襲い掛かってくるわけだ。

 ところで、物価の方に目を移すと、2014年4月以降、食料(酒類除)とエネルギーを除く消費者物価指数、すなわちコアコアCPIの対前年比は、
 4月=2.3%
 5月=2.2%
 6月=2.3%
 7月=2.3%
 と、2%を上回る状況が続いている。

 とはいえ、正しく「物価」の状況を把握するためには、当たり前だが消費税増税による値上げ分(日銀試算で1.7%)を差し引かなければならない。各月の数値から1.7%を差し引くと、
 4月=0.6%
 5月=0.5%
 6月=0.6%
 7月=0.6%
 と、コアコアCPIが「安定的にプラスで推移する」状況であるとは、お世辞にも言えない状況であることがわかる。
 コアコアCPIが2%に上昇し、かつその水準が2年程度は継続しなければ「完全なデフレ脱却」にはならない。

 更に、最近、注目されることが多くなった「東大日次物価指数」は、すでにマイナスに突っ込んでいる。
 東大物価指数は、東京大学の渡辺努教授らによって開発された、全国のスーパー約300店舗の日々のPOSデータを活用した物価指数である。
 販売価格のみならず、POSデータから販売数量も確認し、随時、売れ筋商品を補足していくスタイルになっている。
 しかも、東大日次物価指数は、ある1日の物価を、わずか3日後に公表するという迅速性を誇る。
 物価調査の対象は食料品と家庭用品のみで、総務省のCPIの20%にとどまるものの、実際の消費者の実感に近い高精度な物価指数となっている。
 それに対し、総務省統計局の指数(消費者物価指数)は、数年に一度売れ筋商品の調査、補足を行うのみだ。しかも、数値が公表されるのは月末で締めた1カ月後である。

 東大物価指数の状況を見ると、4月に消費税増税で値上げされた分を、食い尽くすほどの勢いで「値下げ」が進行していることがわかる。
 消費税増税後に実質消費が大きく落ち込み(改定値のGDPでは、民間最終消費支出が対前期比マイナス5.1%だった)、小売店が早くも価格競争に突入している可能性が濃厚なのだ。

 政府から発表されるGDP統計や、各種の物価指標からは、生産面においても、消費面においても「壁」が存在していることがわかる。生産面で在庫が積み上がっている以上、消費者と相対する小売業は、値下げに走らざるを得ない。
 価格の引き下げは、生産者の所得を減らす。すなわち、物価の下落以上のペースで給与所得が落ち、実質賃金が下落していく。

 '97年のデフレ深刻化以降の我が国の国民は、すでに15年以上もの期間、実質賃金が減少する「貧困化」に苦しめられて来たのである。 
 今回の消費税増税によっても、実質賃金は大きく下がった(一時は対前年比3%超の減少となった)。それにもかかわらず、政権が消費税再増税の凍結や緊急経済対策を決断しないとなると、まさに「苛政は虎よりも猛なり」としか表現のしようがないわけだ。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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