−−四字熟語を作ろうと思ったキッカケは?
3年程前、田中象雨さんが作品展を開くとき、「言葉を考えてくれませんか」と依頼を受けました。「四字熟語はどうですか」という話になり、作りました。作ってみて楽しかったので、またやろうかなと思いまして。
−−収録されている中で、お気に入りの四字熟語は?
タイトルにもなっている「鈴虫炒飯(すずむしチャーハン)」は気に入っています。あとは、「編曲過剰」や、「幹事横領」など。
−−「恋文炎上」はどんな意味?
過剰なまでに相手のことを想って、告白を繰り返したり、重すぎる内容の手紙を書く人とかいるじゃないですか。客観的に見ると、「こいつやばいな」ってなるんですけど、でも、自分がその状況になってみると、伝えたくてしょうがない。相手からすればただの迷惑だし、告白したって絶対にふられるって、冷静な自分ならわかっているんです。けど、やってしまう。「恋文炎上」は、妖怪みたいなモノが人間の心の中にはいて、頭ではやったらダメだって理解できているのに、やってしまうという意味です。
−−言葉の背景にあるドラマを表現しているのですか?
言葉の後ろには人間のドラマがあると思っています。俳句とか短歌は、そのドラマで勝負するみたいな所もあります。短い言葉ですが、世界の一端を詠むことによって、それよりももっと大きなことを表現しようとすると、背景が動き出すんですよ。言葉を自分が書くときや、作るときも、そういった言葉が好きですし、自分の言葉もそうしたいなと思っています。
−−いつから、そう考えるように?
うーん、いつですかね。大きい意味で言えば、文学を好きになった辺りからだと思うんですけど、具体的には短歌や俳句の影響が大きいかもしれません。
−−文学はいつから好きに?
文学を文学と思って読むようになったのは中二くらいからです。芥川龍之介の『トロッコ』を読んだとき、衝撃を受けました。何となく感じているけど、まだ感受できていないような感情が、言葉として表現されていました。それを読んだときに「何この感覚!?」と思いました。それで、一気に本に対する興味が沸いたんです。振り返っても、今まで何とも思っていなかった本も、書いてあることしか読もうとしていなかっただけで、本当はおもしろかったということに気がつきました。
−−『トロッコ』のどの場面に衝撃?
最初からずっとゾクゾクきてたんですけど、家に辿り着いた少年が、ワーッと泣くところは、「わかるわー、この気持ち!」となりました。僕も近所を歩いていて、迷子になって不安に思いながら帰った経験があるんです。親とかは何もなかったかのように過ごしているんですけど、「今、俺はとんでもない経験をして帰ってきたんや」と思っていました。そういった、誰にも話したことがない、自分の中ではまだ言葉になっていない不確かな存在として感じていたコトが、『トロッコ』の中では、言葉になっていることを発見しました。小説に限らず、詩や、短歌や、俳句や、エッセイでもそうなんですけど、散らかっている感情や考え方が、きれいな言葉にされたときに、ビシッときまります。
−−振り返って、昨年、又吉さんの中でブレイクしたことは?
綾部の「熟女好き」と比べてという点では、僕の「本好き」がブレイクしたのかな。書店員さんや、本が好きな人たちにお会いした時に、よく言っていただけるようになりました。
−−綾部さんは、又吉さんが「鬼ギャル好き」と言っていますが。
半分は嘘で、半分は本当です(笑)。正確にいうと「鬼ギャル“も”好き」です。ただ、綾部の「熟女好き」と対をなすものではありません(笑)。綾部は女性がみんな好きで、その中でも、熟女が一番好きなんです。僕は、もちろん、女性全般は好きですけど、鬼ギャルが特別好きというわけではありません。もっと、好きなジャンルはありますから。
−−好きなジャンルは?
明るくて、やさしくて、起点が効く人。具体的な名前だと、ずっと言っていることなんですけど、(タレントの)森口博子さん。森口さんは思いやりがあるんですよ。暗い人でもしゃべりやすいんです。
−−又吉さんの理想の女性を四字熟語にすると?
「真実笑顔」です。
−−ストレートですね。
確かに(笑)。ただ、「真実笑顔」の人は、やさしいから誰にでも笑顔を見せるんです。真の理想は、普段はまったく笑わないけど、僕といっしょにいるときだけ、めっちゃ笑ってくれる人。それが、本当の「真実笑顔」です(笑)。
−−2013年にやってみたいことは?
(定型に縛られない)自由律の俳句をやってきたんですけど、(五七五の)定型の俳句をやってみたいです。まだ、作ったことはないのですが、今、習っている段階です。
−−2013年を占っていただくとすると、どんな年になりますか?
四字熟語でいうなら、期待を込めて、「二度驚愕」。2回くらいは、驚きたいなと思います。
−−ファンにメッセージを。
『鈴虫炒飯(すずむしチャーハン)』という本を出版させていただきました。120語の四字熟語が収録されているのですが、その中、その人だけに刺さるものがあると思います。決して難しい本ではありませんので、ぜひ、読んで下さい。(インタビュー・竹内みちまろ)
『鈴虫炒飯(すずむしチャーハン)』
又吉直樹 ・田中象雨著
発行 幻冬舎
定価 1470円(税込)
又吉直樹プロフィール
1980年大阪府生まれ。吉本興業所属のコンビ「ピース」として活躍する芸人。著書に『第2図書係補佐』(幻冬舎よしもと文庫)『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(共著・幻冬舎)など。