横山由依は京都府出身の23歳。9期生としてAKB48へ加入。当初は目だった存在ではなかったものの、彼女の真摯な態度を篠田麻里子(卒業)などが絶賛する声が高まることで、徐々にポジションをあげていき、同期ではもっともはやく正規メンバーに昇格。そして、第3回総選挙では19位にランクイン。選抜メンバーの常連となった。その後も、総選挙では10位台をキープしている。やがて、次期総監督の候補として名前が挙がるようになり、高橋みなみが卒業を発表したことで、正式にそのポジションの後継者に指名された。
しかし、彼女が今後、歩む道は厳しいと言わざるを得ない。まずAKB48は、前田敦子(卒業)と高橋みなみの二人の体制で、人気グループへ成長した。まさに、この2人は巨人でいうところの、“王と長嶋”のような存在であった。もちろん、大島優子(卒業)など他にも人気のあるメンバーはいたものの、グループは、この2人を中心に作られていた。前田卒業後は、なんとかこれまでの貯金で人気を維持してきたものの、高橋も卒業することから、今後、グループとしての方向性を見失う可能性は高い。そこで、グループとしは改めて再スタートを切らなければいけないのだが、実際のファンはそうとらえてはくれないだろう。「昔の方が良かった」「階段を駆け上がっている頃のAKBが好きだった」「昔はもっと、みんなガムシャラだった」と、戦いようがない過去の幻想と比べられることは、次世代のメンバーにとって十字架としてのしかかるだろう。造り上げること以上に、それを維持して成長させることの難しさを痛感するかもしれない。
もちろん、横山も高橋みなみと常に比べられる。高橋はバラエティ番組などでは天然な発言が目立つことがあるものの、コンサートや節目でのあいさつなどでは、とても20代の若い女性とは思えないようなスピーチをする。このスピーチに、高橋のファンではないものも、「さすが総監督!」と一目置いていた。一方、横山のスピーチ力はかなり怪しい。話がダラダラと長いことはよく言われるが、2015年の紅白歌合戦のリハーサルの囲み取材でも、「2016年の目標」を聞かれ、「個々の活動を頑張る」という、とても今後のAKB48の“総監督”とは思えないような答えをしていた。今後、「高橋みなみは、もっとイイことを言っていた」と言われ続けることは明白であり、その呪縛から解かれようと、横山が努力しても、そこにすでに高橋はいないため、これも過去の幻想と戦うという厳しいものになる。
また、横山個人の人気の維持も大きな課題だ。確かに一時期の横山は、AKB48の歴史の中でも異例といえるほどのスピードで、人気メンバーへの階段を駆け上がった。しかし、高橋みなみがテレビ番組で、「厳しいことを言うと、横山も今から爆発的な人気を得るのは難しい」と冷静にコメントをしていたように、今後、総選挙などで高い順位を狙えるかといえば難しい。今後の展開次第では、総監督が総選挙で選抜落ちという可能性も絶対にないとはいえない。さらに、ファンから見れば、横山は新世代、次世代というよりも、旧世代の最後尾で、過去の人というイメージも持たれていることも事実だ。
さらに、高橋みなみには、同期に絶対的なエース・前田敦子以外にも峯岸みなみや小嶋陽菜、板野友美(卒業)、篠田麻里子(卒業、正式には1・5期生)など、特別な関係ともいえるメンバーがいて、彼女たちの支えは大きかっただろう。しかし、横山は前田のような存在として島崎遥香はいるものの、他の同期に人気メンバーともいえる存在はない。かろうじて大場美奈がいたものの、彼女はSKE48へ移籍してしまっている。メンバーからも「同期は特別な存在」という声はよく聞かれるが、横山のサポートを誰がするのかというのは大きな課題だ。
今後の横山由依について、考察していくと多くの不安要素が並べられるのは否定できない事実である。ただ、きっとこれまでAKB48をけん引してきた高橋みなみからすれば、それをすべて承知の上で、「自分たちも7名の観客からここまで来れた。横山も別の辛さである大きな課題を乗り越えて欲しい」という思いがあるだろう。そして、その横山が過去の幻想と正面から戦う姿勢が、新たなAKB48のドラマを生むことになるはずだ。