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郵政3社上場に水を差す 東芝“粉飾”訴訟の破壊力

 日本郵政グループ3社が11月4日、鳴り物入りで東証1部に上場した。民営化に伴う上場では「最後の超大物」(市場関係者)であり、市場の活性化=株価上昇に直結すれば、アベノミクスを強力に後押しすることになる。麻生太郎財務相が上機嫌で「3社の株式を広く国民に所有していただくことは『貯蓄から投資へ』の流れに大きくつながる」との熱烈エールを送ったのも当然だろう。
 しかし、お膝元の証券業界からは「東芝の粉飾スキャンダルが、晴れの上場に冷や水を浴びせかねない」との不吉な観測が漏れ伝わってくる。

 日本郵政の西室泰三社長(79)は1996年から4年間、東芝で社長を務め、その後実力会長として隠然たるニラみを利かせた。2005年には相談役に退いたが、東証会長や郵政社長の要職に就いた一方で「相談役として足繁く東芝に出向き、内部の情報収集に当たっていた」(関係者)とされる。
 これで東芝の“粉飾疑惑”が刑事事件としてさく裂すれば、実力者の西室氏にも波及しかねない。結果、同氏が社長を務める日本郵政に飛び火し、上場フィーバーに水を差すとの見立てである。

 東芝は9月30日の臨時株主総会を経て、室町正志社長率いる新体制がスタートした。これに伴い、粉飾決算に深く関与した旧経営陣が「秋風ヒヤリ」の心境に陥ったのは間違いない。同社は9月17日、株主総会に先駆けて“粉飾”が行われた期間の取締役や執行役の責任を調査する『役員責任調査委員会』を設置。11月上旬に報告が出るのを待って損害賠償の請求訴訟を起こす方針を掲げており、その対象として西田厚聰氏、佐々木則夫氏、田中久雄氏の歴代3社長の名が取り沙汰されている。
 「3人の元社長に責任を負わせることで幕引きを図ろうとすれば、株主の怒りを買うにきまっている。そもそも委員会を設置したのは、株主から役員の責任を追及するよう提起請求を受けてのこと。うかつなことはできません。それに責任追及は民事だけじゃない。経営陣の刑事責任が問われるのは必至で、西田さんの前任社長だった西室さんだって内心、ハラハラの心境でしょう」(東芝ウオッチャー)

 その西室氏、日本郵政社長としての定例会見(7月22日)で東芝の問題に言及し、「社長経験者としてあえて申し上げれば、極めて残念です。私が相談を受けたら、あのようなことを容認するはずもない」と言い放った。
 だが、東芝OBは「彼自身、そうキレイ事を言えた立場ではない」と打ち明ける。その好例が'06年1月に発表した米原発会社大手、ウェスチングハウス(WH)の買収だ。

 WH買収に東芝は総額約6000億円を投入した。市場では「バカ高く見積もっても3000億円」とされており、原発ビジネスに意欲満々だった東芝が足元を見透かされたのは明らかだ。実際、WHには1兆円を上回るのれん代(買収金額と資産価値の差)が計上されている。それどころか東芝はWHに対し、昨年3月期で4929億円、今年3月期には5816億円の債務保証を行っている。要するにWHは今や、大いなる金食い虫と化したのだ。
 「買収を陣頭指揮したのは西田さんですが、会長を退いたばかりの西室さんはベーカー元駐日大使をロビイストに雇い、米財界に働き掛けてライバルを蹴落とした。当時、本人は鼻高々でしたが、実際は大変なババを引かされた。東芝が粉飾の泥沼にハマったルーツこそ、WH買収に他なりません」(前出・東芝OB)

 ちなみに西室氏、後に日米財界人会議の日本側議長を務めている。裏を返せば米国に幅広いネットワークを持ちながら、自らの商談ではドジを踏んだ格好なのだ。これでは粉飾に直接関与した歴代3社長だけでなく、西室氏の経営責任が嫌でも浮上する。
 どうりで捜査当局が西室氏に「強い関心を示している」(情報筋)わけだが、実は日本郵政も東芝のWH買収とよく似た案件を引きずっている。今年の5月、日本郵政傘下の日本郵便はオーストラリアの物流会社、トール・ホールディングスを6142億円で買収した。ところが同社は4〜6月決算で5321億円ののれん代を計上、金融関係者は「大変な食わせ物をつかまされた」と驚きを隠さない。

 親方日の丸体質にドップリ漬かっていたとはいえ、グループの指揮官は民間企業出身の西室氏なのだ。前出・東芝ウオッチャーは冷ややかだ。
 「相談役の任期は80歳との内規があり、これを楯に居座ってきたが、彼は年末でその齢になる。この分だと晩節を汚しかねません」

 火ダルマか、勇退勧告か。稀代の大物社長を頂く日本郵政が、悩ましい局面を迎えたのは疑う余地がない。

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