まさかの展開だった。11日目、照ノ富士は1敗の横綱・白鵬に敗れ、3敗に後退。この時点で、横綱・日馬富士も3敗で、白鵬の7連覇は濃厚とみられ、照ノ富士は優勝はおろか、大関昇進は露と消えたと思われた。
ところが、白鵬が12日目に大関・豪栄道の首投げに不覚を喫すると、緊張の糸が切れてしまったかのように、14日目には苦手とする大関・稀勢の里に敗れ、3敗で照ノ富士と並んでしまった。
照ノ富士は春場所、13勝2敗で準優勝の星を残したが、同場所後に昇進の目安とされたのはハイレベル(14勝以上)での優勝だった。だが、14日目を終えて、優勝の可能性が出たことで、なぜか昇進問題が突如浮上。日本相撲協会審判部は照ノ富士が優勝した場合、大関昇進を諮る臨時理事会の開催を要請することを決めてしまったのだ。
迎えた千秋楽で、照ノ富士は西前頭6枚目・碧山を破り、3敗をキープ。一方、白鵬は照ノ富士の兄弟子である日馬富士に敗れて4敗となり、優勝決定戦に持ち込まれることなく、照ノ富士の初優勝が決まった。
大鵬のもつ歴代最多優勝記録を更新した白鵬は、目標を失ってモチベーションが低下したのか、終盤の4日間で1勝3敗のていたらく。白鵬の自滅で、たなぼたの優勝を果たした照ノ富士だが、成績は12勝3敗と低レベルで、とても力でもぎ取った優勝とはいいがたかった。12勝での優勝は、12年夏場所で平幕優勝した旭天鵬以来、3年ぶりのこと。
これを受けて、北の湖理事長(元横綱)は理事会の招集を明言。27日に開かれる番付編成会議と臨時理事会で、大関・照ノ富士が誕生することが確実となった。
大関昇進の目安とされているのは、直前3場所で33勝。照ノ富士はギリギリでクリアしているが、この目安はあくまでも“三役”であることが前提。2場所前は前頭2枚目で8勝どまり。三役での実績はこの2場所しかないだけに、審判部内には“時期尚早”との意見もあったようだが、昇進を推す声が大勢を占めたようだ。
時期尚早といえば、先に大関に昇進した豪栄道は直前3場所で32勝と目安に満たなかったが、14場所連続で関脇を守った安定感が評価された。だが、昇進後は勝ち越すのが精いっぱいで、2ケタどころか9勝もできていない。
その前に昇進した稀勢の里も、32勝と目安に満たなかったが、将来性を買われて昇進。一時は綱獲りのムードもあったが、ここ1年は低迷。2ケタ勝てない場所も多くなってきた。
稀勢の里以降、次々に時期尚早とみられる大関が誕生することになるが、この2場所の照ノ富士を見るかぎり、現役のどの大関より大関らしい相撲を取っているのは事実。今場所、皆勤で負け越した琴奨菊を含め、大関陣のだらしなさが目立っているだけに、時期尚早とはいえ、“強い大関”への期待感は高い。しかも、日馬富士と同部屋で対戦することがないため、白鵬や他の大関より有利になる利点もある。
本人の努力次第だが、年齢的にも若く、十分横綱を狙える素材であることに間違いない。照ノ富士が期待通り、伸びてくれれば、白鵬の“ひとり勝ち”状態は終えんを迎えることになりそうだ。
(落合一郎)