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【不朽の名作】松田優作の怪演が魅力「野獣死すべし」

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 80年代の邦画といえば、忘れてはならない俳優がいる。松田優作だ。この「不朽の名作」のコーナーでは、現在・過去問わず、既に方々のメディアで取り上げられたことのある松田に関してあえて避けてきた感もあるが、今回は1980年公開の松田主演作品『野獣死すべし』を扱う。

 同作は、『西部警察』『あぶない刑事』で有名な村川透が監督をした。松田と村川監督も『蘇える金狼』や『探偵物語』などの作品で関係が深い。松田が同作の役作りのために、上下4本の奥歯を抜いたことや、かなりの減量をしたことは有名だが、この辺は他のレビューなどでも取り上げられることが多いので割愛する。

 この作品はとにかく松田の役者としての評価ばかりが注目されがちだが、公開を決意した製作陣の意気込みもかなりのものだったのではないだろうか? 主役の伊達邦彦(松田)は、通信社のカメラマンとしてウガンダなどの激しい戦場を渡り歩く内に、大勢の人の死を目撃し、死をある意味甘美なものと思うようになってしまい、殺人や銀行強盗をはたらく大量殺人鬼だ。要は凶悪犯罪者が主役の作品を商業ベースにのせた作品なのだ。

 同じく80年代に犯罪者を主人公に描いた作品というと、「津山三十人殺し」を元ネタにした『丑三つの村』(1983年公開)や「瀬戸内シージャック事件」が元になっている『凶弾』(1982年公開)などがあるが、これらの作品は元になった事件が明記されている。しかし、この作品ではそれもないので、ドキュメンタリー的な要素もない。かといってアメリカン・ニューシネマとして有名な、『俺たちに明日はない』のような、銀行強盗を繰り返し、自ら絶望に向かいながらも、どこか切なさを感じるロードムービー的な部分も少ない。ただひたすら邦彦が人間として壊れてしまった末の凶行を見続けるという状態で、とらえようによってはかなり特異な作品に仕上がっている。製作に関わっていた角川春樹事務所の新しい映画を作ろうという意思の強さが、かなり感じられる。

 作品の分類上はハードボイルド作品となっているが、正直「どこが!?」レベルだ。ひたすら凶行を見せ続けるという部分ではむしろ、2010年代に入って公開された『冷たい熱帯魚』や『悪の教典』とかの方が近い、完全にサイコキラーモノだ。ある意味では、延々と胸糞悪い展開を見続けさせられる作品と言える。

 実は同作、大藪春彦の同名小説が原作になっている。同作の他にも何度も映像化されており、仲代達矢や藤岡弘主演のバージョンが存在する。原作では狂気な部分はありつつも、ハードボイルドといえるジャンルには収まっており、後半のシリーズ作品にはスパイアクション的な要素があるものも。しかし、同作はというと原作と人物像がかなりかけ離れているのだ。さらに復讐譚的な部分も巧妙に薄くしており、始めから主人公をサイコキラーとしてとらえて製作した意図がうかがえる。

 原作があるものを使って大幅改変を行うことの賛否は現在でも論議となることが多く、問題のあるケースも多々存在するので、あまり強くは言えないが、この作品に関しては、陰湿で不気味な狂気を持った若者という人物像を描くという意味では成功している。松田演じる邦彦は狂った部分を持つが、それだからこそ魅力的だ。劇中で殆どまばたきをしない松田の演技も狂いっぷりに拍車をかけている。巷にあふれる、とにかく叫ぶだけとか笑うだけの“ヤバいヤツ”の演技とは比較にならない。

 また、同作は長回しが非常に印象的だ。邦彦が自身の思想などを語る場面などに使われている。ほぼ独り言で、所々音量を上げないと聞き取れない部分などもあるのだが、とにかく独特のテンポでまくし立てる感じが、この作品をさらに特異なものとしている。おそらくアドリブもかなり多いはず。

 また、松田の怪演の前に薄れがちだが、ひょんなことから知り合い、邦彦の銀行強盗に加担することになる、真田徹夫役の鹿賀丈史もなかなかの存在感だ。徹夫もなかなか頭のネジが外れた男なのだが、邦彦という“本物”と出会って、仲間になる条件として恋人殺しを強要され、その後も無茶苦茶な命令にあい、段々とおびえていく様がかなり印象的だ。全編通して、とにかく方々で凄まじい立ち回りを松田がしており、下手をすると松田のワンマンショーとなってしまう同作において、このポジションでも存在感を発揮できる鹿賀がいたことはかなり重要だったのではないだろうか?

 作品全体としては雑な部分がない訳ではない。拳銃や小銃の入手経路とか、あそこまで派手にやってなんで犯人像が全く特定されなかったのかとか。他にも同じ銀行になんどもちょっかい出しすぎなどなど。特に前半部分はちょっとダレ気味。しかし、そういった荒い部分を松田の怪演一つで帳消しにしてしまっているのが、この作品が邦画のなかでも有数の作品として語られる部分だろう。まさに松田のためにあったような作品だ。

(斎藤雅道=毎週土曜日に掲載)

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