監督はムツゴロウさんこと畑正憲。協力監督として市川崑の名前がクレジットされている。80年代後半から90年代の「ムツゴロウ動物王国」ブームはすさまじく、フジテレビ系で特番放送『ムツゴロウとゆかいな仲間たち』が組まれる度に話題となっていた。そんな大ブームの時期と、南極の昭和基地に取り残された犬ぞり犬をテーマとした『南極物語』(1983年公開)のヒットを受けて製作されたのが同作だ。
主人公は子猫のチャトラン。サブ主人公のポジションをパグ犬のプースケが務める。ひょんなことから母猫とはぐれてしまったチャトランが、北海道の大自然をバックに、大冒険をする話となっている。一応人間側のキャストとして露木茂アナウンサーと、小泉今日子がいるが、露木アナはナレーションとして、小泉は詩を朗読をするだけという声の出演に留まる、本編の映像中には動物以外全く出てこない純粋な動物映画だ。
内容はというと、ほぼないに等しい。ナレーションは状況説明をしてはいるが、そもそもチャトランが北海道の大自然を巡るというだけなので、それほど状況を詳しく説明するものではない。劇中に挟まれる詩も意味のわからなさに拍車をかけている。当時はキョンキョンブームの全盛期。小泉の朗読目当てに当時劇場へ行った人は楽しめたのだろうか?
ただ「チャトランがカワイイ」という作品だ。公開当時文部省推薦作品だったが、確かに子供が夢中になる要素は満載だろう。チャトランの他にも、クマ、アライグマ、キタキツネ、ブタ、馬、ミミズク、とにかく多数の動物が登場し、様々なしぐさをしてくれる。
が、内容を深追いするとこれほどへんてこな映画もそうない。他作品の人が登場しない動物映画は、ほぼ人の手が加えられないので、動物のありのままを見せることが重要になっている。しかしこの作品では“物語”なので、人の手が加わりまくりなのだ。序盤からかなり飛ばしている。いきなり、猫とヘビの格闘シーンが挟まれる。猫の習性を利用した撮影なのだそうだが、まあよく撮ったなと。その後のカニとチャトランの対決では、チャトランが鼻をハサミで挟まれていたが、あれは大丈夫だったのだろうか?
しかし、その後は序盤のネコの扱いなど、どうでもよくなってくる。まず、プースケとクマの対決が強烈に視聴者の目に焼きつくことに。クマとはいっても小熊だが、それでも小型犬パグとの体格差はかなりのもの。このクマに映画『空手バカ一代』に出演したウィリー・ウィリアムスやトニー・ガレントのようなノリで、プースケが果敢にクマ挑んでいくというなんともいえない映像が展開される。しかもクマ相手にやはりプースケは劣勢となり、のしかかられる形となってしまう。プースケは怪我しなかったのだろうかと心配になってしまう。
クマとの対決に衝撃を受けた後も過激な映像は続く。今度はチャトランが箱に乗って川に流されているではないか、「あ! 滝だ」じゃないよナレーション! よく箱の中でネコをおとなしくさせるようにしたと多少は感心するが、さすがにシーンが作為的過ぎて若干引く。他にもチャトランを崖から投げたり、穴に落としたりと、無理矢理感のある冒険が多いのがこの作品の特徴だ。いくらネコが身軽とはいえ、危なっかしく思ってしまうほど。そのせいか、『南極物語』と同様に、撮影中に死んだ動物がいるのではないかと都市伝説が現在でも語られるほどだ。まあ、思うことがどうあれ、衝撃的な演出を視聴者に見せるという意味では成功してるかもしれない。
だが、『南極物語』と大きく違うのが、これらのシーンにそれほど必要性を感じない部分だ。『南極物語』では、南極という過酷な環境に取り残された犬ぞり犬たちが、どうこの難局を乗り切ろうとしたかで必要だった。しかし、同作はというともうちょっとほのぼの系でも良かったのではと感じるほどだ。劇中の、しっぽを使って魚を獲るシーンなどはリアリティーがないとはいえ、かなりネコの可愛らしさを表現する意味では成功しているのではないだろうか? そういったシーンより“冒険”を強調したいがための過激シーンが目立つのがこの作品の残念な点だ。チャトランが脚を引きずるような、痛々しいシーンもあり、楽しむのにかなり人を選ぶ作品になってしまっている。
同作は、ある意味この時代でしか出来なかった映画かもしれない。公開した年の興行収入では、同作が邦画ダントツのトップだ。現在だったらネコを主役にしようという企画が上がれば必ず人間の俳優を入れろと方々から注文があるだろう。ムツゴロウ動物王国のブームと『南極物語』のヒットが上手く重なった結果といえる。ちなみに音楽は坂本龍一でこれも印象的。内容に関しては時々カルト映画的な側面もあるのだが、まあチャトランとプースケという“アイドル”が出演しているアイドル映画として観るならば許容できる範囲だろう。あとは普段動物にどういう感情を持っているかでこの作品の評価は人によって大きく変わってくる。
(斎藤雅道=毎週土曜日に掲載)