今年は投手34人、野手25人の計59人が参加。会場では例年以上に独立リーグの編成担当者の姿が多く見受けられた。北陸・上信越地区で活動してきた『ルートインBCリーグ』に来季は埼玉、福島の球団が加わり、8球団2リーグ制となる。チーム数、試合数が増えれば、既存の6球団も選手数の増員をしなければならない。群馬ダイヤモンドペガサス(ルートインBCリーグ)のシニアディレクターに就任したアレックス・ラミレス氏も視察に訪れていた。
「受験選手はNPB復帰を目指しています。スカウティングの優先順位もNPBにあると思います。NPBのスカウティングが終わるのを待ってからになると思いますが、わたしたちもきょうの調査報告をまとめ、動き出したいと思っています」
ラミレス氏はトライアウト終了後の囲み会見に応じ、そう話していた。
また、今年のトライアウトは例年以上に「レベルが高かった」(米スカウト)という。その証拠に、ベンチ裏でこんな声も聞かれた。
「使える奴、いっぱいいるじゃん!」
トライアウトは12球団が立ち回りで担当となり、ブルペン捕手やトレーナー、フロント職員を派遣する。今年はそれを巨人が務めたのだが、次年度も契約を交わす現役投手のボールを捕ってきたブルペン捕手陣がそう言うのだから、受験選手たちにこれ以上に心強いエールはないだろう。
NPBを含め、各スカウトが注目していたのはDeNAを解雇された投手たちだった。10月3日にDeNAは11人の投手に戦力外を通告した。高田繁GMは「ファームでの登板機会はドラフト上位の若手や1軍からの再調整組がどうしても優先されるからね。これだけ(投手の人数が)多いと…」と、アンバランスな選手構成を嘆いていた。投手難に泣かされた旧ベイスターズ時代の負の遺産とも言える。そんな煽りを受けて解雇された投手の中で、ネット裏のスカウト陣が表情を一変させた選手がいた。陳冠宇(24=左投左打)である。実績のある藤井秀悟(37)、小林太志(31)に対しても、「まだ使える」と見たスカウトも多かった。
まだ23歳でDeNAから戦力外になった左腕の真下貴之はこう語っていた。
「今年の6月くらいから全然投げさせてもらえなくて…。こうなることは何となく分かっていました。でも、下を向いていても始まらないし、むしろ吹っ切れたというか、きょうに至るまでの約1カ月、前を向いて練習することができました」
その他のDeNAを解雇された伊藤拓郎(21)、冨田康祐(26)、旧ベイスターズ最後の1位指名投手の北方悠誠(20)も前向きな気持ちを語っていた。若い投手には覚醒するまでの“啓蟄(けいちつ)の時間”も必要なのだ。
ベテランの藤井の言葉が興味深い。藤井は自身の登板前に投げた江尻慎太郎(37=福岡ソフトバンク)と自分のことを引き合いに出して、『トライアウトとは』を説明してくれた。
「彼が(投手の)良い流れを作ってくれて、その後に出た自分がフォアボールを出しちゃって。バッターも打ちたいはずだし、自分はちゃんと腕を振って投げられるというところをアピールしたつもりですが、こういうテスト形式のルールもあって。でも、選手の側は与えられたチャンスのなかでアピールするしかなくて」
トライアウトは『カウント1ボール1ストライク』から開始する。投手に与えられたチャンスは『対バッター4人』。この限られた対戦のなかで、藤井のような先発タイプの投手が持ち味を発揮するのは難しい。彼らに野球が続けられる機会がまた与えられればいいのだが…。(スポーツライター・美山和也/写真・佐藤基広)