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売上高5割依存アップル失速でホンハイ窮地… シャープまさかの心中リスク

 アップルの失速が背景にあるのではないか−−。台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業によるシャープの買収交渉(シャープから見れば身売り)が土壇場になって膠着状態に陥ったとき、外資系証券のアナリストが不吉な感想を漏らした。
 『iPhone』『iPad』で世界を席巻してきたアップルが昨年暮れ、販売不振を理由に生産調整に乗り出した。これは取引先の業績悪化に直結する。中でもインパクトが大きいのは2015年の売り上げが15兆2000億円に達した鴻海で、その半分超をアップルからの受託生産に依存している。
 「シャープ乗っ取りに7000億円も投じている場合ではないのが実情。運命共同体のアップルが非常事態に陥れば、鴻海そのものが“第2のシャープ”になりかねない。そんなリスクがあるからこそ鴻海はシャープとの交渉をズルズルと先延ばし、市場から“腰が引けている”と不信感を買ったのです」
 冒頭のアナリストは、そう付け加える。道理で鴻海はシャープが後から公表した3500億円の偶発債務に難色を示し、揚げ句に銀行団と虚々実々の駆け引きを演じたわけだ。

 しかし、事態を深刻に受け止めているのは当のアップルである。昨年暮れには世界の主要取引先200社に対し生産調整を通告した。関係者はiPhone発売以来、快進撃を続けてきたアップルが「ついに非常事態を宣言した」と受け止めた。果たせるかな、今年に入ると「1〜3月期に3割減産」を通告、取引先が一斉に震え上がった。そこまで減産を強いられれば、取引先には死活問題である。
 実際、鴻海は1月の生産実績が前年同月比で14.7%も落ち込んだ。この分だと3月末までは確実にダメージを被る。4月に発売予定の4インチ新型モデル『iPhoneSE』が話題になったところで、すぐに業績が好転する保証はどこにもないのだ。

 日本企業も例外ではない。アップルのスマホ用コネクターを生産する日本航空電子工業は1月末、3月期の業績見通しを大幅に下方修正した。中国経済の減速や世界的な原油価格の影響があったとはいえ、「アップル向けスマホが1月時点で前年比3割も落ち込んだ」(アナリスト)ことが大きい。
 日東電工も“返り血ショック”に塗れている。同社は薄型化が進むスマホのスペックに対応し、これまでよりも薄い新型フィルムを開発した。これがiPhoneのタッチパネルに採用されたが、そんな矢先のアップル失速である。同社にとって「この分野は営業利益の8割を稼ぐ最大の収益源。他の事業が回復したから救われたものの、経営陣は冷や汗タラタラだった」と担当記者は打ち明ける。

 もう1社、笑うに笑えないのがアルプス電気だ。同社は昨年10月、スマホ用カメラの手ぶれ補正デバイスが昨秋発売のiPhone6sに採用されたことから、今年3月期の業績見通しを上方修正した。同社はその前にも上方修正しており、市場には“ウエルカムムード”が漂った。ところが1月に入ると一転して下方修正に追い込まれた。理由は多くを語るまでもない。結果、短期間に上方-上方-下方と修正を重ねたのだ。
 これだけでも「アップルに踊らされている」の図だが、笑えないのはその後だ。アップルが今秋に投入する予定の『iPhone7』に対応すべく「生産能力の増強は続ける」といち早く宣言しているのだ。アルプス電気が日本を代表する“アップル銘柄”といわれるゆえんがここにある。

 ならば、売上高の半分超をアップルに依存する鴻海はどうか。アップルによる“3割減産”によるダメージの詳細はまだ明らかになっていないものの、日本企業の下方修正ラッシュを見る限りでは鴻海自体がボディーブローを受けているのは間違いない。問題は、それがいつまで続くかだ。
 米国では「アップルが近く中国など新興国向けにiPhoneの低価格機種を投入する」との観測が浮上している。そのココロは「たとえ低価格であろうと、新機種を投入すればユーザーが飛び付く。ユーザー転がしを重ねればアップルの失速が打ち止めになる」との期待感に他ならない。むろん、新機種が大ヒットすればアップルの業績が急回復し、世界の取引先が恩恵を受ける。逆にアップルが地獄のドン底へ落ちれば取引先は道連れである。シャープOBは辛辣だ。
 「一代で鴻海を築いた郭台銘会長は一時、アップルにシャープへの共同出資で“抱き合い心中”を持ちかけたほどシタタカですが、アップルの尻に火が付けば真っ先に斬り捨てられる。それが怖いからシャープとの“商談”になかなか踏ん切りがつかなかったのです」

 アップルの世界戦略ともども、しばらくは鴻海から目が離せない。

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