▽9月30日 さいたまスーパーアリーナ 観衆 27,208人(超満員)
運営サイドの対応は早かった。台風24号の影響で、首都圏のJR在来線が20時で運転を取りやめると発表したのが試合開始1時間前の14時頃。今大会はRIZIN史上最多となる観客動員が見込まれていた。前回大会で、地上波生中継に合わせて休憩時間を1時間設け、待たされたファンからの批判を受けた榊原信行実行委員長が「今回はそういうことがないように会場のお客さんをファーストに考える」と明言した経緯もあり、今回は2試合予定されていた生中継を断念し、中盤以降の試合順を変更した。
かつてゴールデンで生中継されていた時代のプロレスや相撲巡業で見られた「逆取り(さかどり)」を実行し、関係者はメインイベントの那須川天心対堀口恭司を「19時までに終わらせるように演出面などで対応していきたい。われわれとしては大会自体を19時に終わらせるのが目標。生中継は諦めます」と大会開始直前に発表。試合中も「本日JR在来線が20時をもって運転を取りやめると発表しております」というアナウンスを入れており、大会を強行したが運営側の誠意は十分に伝わったと思う。
9月18日に弟・山本KID徳郁さんを亡くした山本美憂だが、オープニングで行われたKIDさんの追悼セレモニーでは、美憂の息子・山本アーセンが「ノリが死ぬ時はみんなの記憶から消える時です。だから、どうかノリのことを心の中に入れておいてください。みんなの声を天まで届けよう」と立派にスピーチした。2016年の大晦日では「何も分からなかったから、何もできなかった」というアンディ・ウィンとのリベンジマッチに臨んだ美憂は、この2年間でKIDさんらコーチ陣からの指導で、MMAファイターとして成長を遂げていた。前回はスタンディングでの打撃狙い一辺倒だったが、今回はグラウンドにも踏み切っていた。これで効果的にポイントを稼ぎ、最終ラウンド試合終了間際に腕十字固めが決まった瞬間に終了のゴングが打ち鳴らされた。すると美憂は倒れながら天に向けて指をさした。試合は3-0で美憂が判定勝ちを収めた。
KIDに勝利を捧げることができた美憂は試合後「勝てて良かったですけど、スタンドの打撃がうまくいってなかったのと、セコンドの声は聞こえていたのに試合になると体が動かない。悔しいですね。今までずっと反省会をしてました」と苦笑い。「前回は狙ってくるのも分からなかったけど、今回は対応できたと思う。立ち技で圧倒したかったですね」と悔しさをにじませた。ファンの声援については「私のこともそうなんですが、みんながKIDを愛してくれてたことがうれしかった」と笑顔。今後は「一戦、一戦、強くなることしか考えてない」と意気込んでいた。なおKIDさんのお別れ会は11月4日に青山葬儀場で行われることが発表された。
今年の3月に自動車事故を起こして大相撲から引退、ジョシュ・バーネットに弟子入りし、格闘家への転向を表明していた大砂嵐が、“野獣”ボブ・サップと対戦した。序盤はど迫力の肉弾戦になり、場内は沸いていたが、サップの頭をカットするまで追い込んだにもかかわらず、サップに背を向けて攻撃を避けるなど、大砂嵐もサップもスタミナが明らかに切れており、立っているのが精一杯の状態に、場内は違った意味で沸いた。試合終了と同時にサップが大砂嵐に抱きついたこともあり、コミックマッチ色の強い試合になってしまった。試合はサップが3-0で判定勝ち。国内のMMAマッチで久々の勝利を収めている。
試合後、サップは「きょうの勝利は今年亡くなった韓国のプロレスラー、ジャガー・リー(かつて新日本プロレスに参戦していた故・大木金太郎さんの弟子)に捧げたい」と述べると大砂嵐について「すごくいい選手だった。自分も若い時は試合開始から飛ばしたことがあったけど、彼はスモウの圧力を増やせばいい。きょうは私のような大きな選手とも試合ができた。もっと格闘技の試合を積めばいいと思う」とエールを送った。
大砂嵐は「思ってたイメージと違った。大晦日でリベンジしたい」と悔しげ。「自分の状態と調子を見てて、相手が見えてなかった。調子は良かったけど、まだまだ勉強したい」と反省した。「試合は勝てたと思う。ただテイクダウンした時、ボブがうまかった。スタミナが難しかったですね。もっと勉強して練習して勝ちます」と振り返った。また入場テーマ曲にアブドーラ・ザ・ブッチャーの入場テーマ曲『吹けよ風、呼べよ嵐』を使い会場からどよめきが起こったことに話題が及ぶと、大砂嵐はブッチャーを「知らない」とし、「ピンク・フロイドを意識した」と語った。大砂嵐をコーチしているジェフは「勝とうが負けようがこの競技をやり続けたい気持ちがあるかどうか」と話していたが、まさにその通り。第2戦はズンドコ試合にならないように練習しなければ厳しいだろう。
大会終了時間は21時前。オープニングの入場式をはじめ、カットできる演出はとことんカット。煽り映像も前の試合の選手が退場すると間髪入れずに流していた。天心対堀口が終了して会場には半数を大きく上回る1万人弱の観客が残っていたが、ある意味「歴史の証人」として語り継がれる大会になったのは事実。格闘技でここまでの“神興行”は近年なかっただけに、これをキッカケとして大晦日に向け、格闘技界全体が盛り上がるといい。
取材・文・写真 / どら増田、舩橋諄