就任式は、人種差別団体による暗殺などを警戒し、軍や警察など計4万人の物々しい超厳戒警備態勢が敷かれた。随所にテロ警戒の目が光り、狙撃兵の姿も。氷点下のワシントンで、観衆は白い息を吐きながら新大統領の演説に耳を傾けた。
「60年前に地元のレストランで食事すらできなかった男が、いまみなさんの前で最も神聖な誓いを立てている。われわれは共通の危機に直面している。でも米国よ、解決はできるのだ」
堅実ながらも地味な内容だった。約18分30秒かけて経済危機克服に向けた決意を示すと同時に、責任あるかたちでイラクから撤退する方針を示した。しかし、リンカーンやジョン・F・ケネディのような“名ゼリフ”は生まれなかった。それでも、全米から集まった約250万人の観衆は歓喜の声を上げた。
その後の祝賀会で民主党のE・ケネディー上院議員(76)が倒れるハプニングもあり、パレードは予定を1時間以上遅れて出発。専用車の両脇4隅に黒いコートを着たシークレットサービス4人が張り付き、周囲を警戒しながらペンシルベニア通りを進んだ。
米国民の関心事は、パレード中、暗殺の危険性が高いオバマ氏が車道に降り立つかどうかだった。歴代大統領は専用車を降りて沿道の観衆に手を振ってきた。黒人大統領誕生を苦々しく思っている勢力があるにも関わらず、オバマ氏は危険を覚悟で車道に降りた。一向に車に戻ろうとしない。ミシェル夫人と片時も手をはなさず観衆の声援に笑顔でこたえ、約2.5キロのコース中、2度も歩いてゴール。強気と夫婦愛のパフォーマンスで“地味演説”をカバーした。
米国には白人至上主義の秘密結社「KKK(クー・クラックス・クラン)」をはじめ、「アーリアン・ネーションズ」などのネオナチや、武装民兵集団「ミリシア」など危険なグループが数多く存在する。昨年10月には、オバマ氏暗殺を計画したとしてスキンヘッドの若者2人を逮捕。今年に入ってからも、UFOサイトに暗殺予告を書き込んだ男を検挙している。
秘密結社に詳しいジャーナリストは「勢力が縮小しているKKKは、これを機に組織拡大をはかっているとみられる。行動に移すとすれば勢力が整うこの先か」と指摘する。人種差別するような連中には、これからも屈してほしくないものだ。