なぜなら葬儀は亡くなった故人をしのぶとともに、遺族同士が「これからもよろしくお付き合いください」という御願いの場でもあるからだ。従って“一切お別れをしない”のでは貴重な挨拶の機会も失われてしまうし、気持ちの整理がつかない場合も少なくない。
「遺族の負担をできるだけ減らすためにも“立つ鳥、後を濁さず”の気持ちで、生前から『自分の葬儀はこうしてほしい』という意思を明確にしておくことです」と、寺尾氏は生前準備の重要性を強調する。
その心得は、七つある。
一、人間関係の「棚卸し」
葬儀には誰に来てもらいたいか、自分自身を中心にして「血縁」「地縁」「社縁」(会社の人間関係)など関係のある人を選び出し、ノートに記しておく。具体的には「必ず来てほしい人」「できたら来てほしい人」「御遠慮願いたい人」に分けてリストアップしておく。
この人間関係の整理は残された遺族の「安心」につながる。遺族が困ったときに、頼るべき人を見つける心のよりどころにもなるからだ。
二、葬儀社から事前に見積もりを取っておく
まず自分はどんな葬儀をしたいのか、できるだけ具体的にイメージしておく。大まかな輪郭、こだわりたい細部を描いた後、それを現実に当てはめて実現可能な形に修正し、葬儀社に相談する。このとき、複数から見積りを取ること。インターネットの『価格・com』で葬儀費用の比較もできる。
三、葬儀費用の確保
一般には冠婚葬祭互助会などを利用して葬儀費用を積み立てる手があるが、互助会も玉石混交なのでよく吟味することが大事。ネットや電話帳などで互助会制度のある近所の葬儀社を探すのがベストだが、葬儀社はたいてい会員獲得の説明会を開いているので、何社か回って直接話を聞くとよい。入会後から実際の施行までのサポートやフォローが充実しているところを選ぶことだ。
「自分に合う、合わないを判断するには、自分自身で知識を得て、目を養うことが大切です。駄目だと思ったら思い切って解約する勇気を持つことです」と寺尾氏。また、「少額短期保険」を利用するのも有効。これは一般の保険とは異なり、一定の事業範囲に定められた取引を行う保険で、葬祭費用を捻出するための保険もある。寺尾氏が薦めるのは、例えば60歳代なら「年間7000円の保険料のプラン」。合計3口まで入ることができ、1口なら30万円、3口入れば合計90万円が支払われる。直接の葬儀費用だけでなく、入院費用の精算や仏壇・墓の購入費用、永代供養料まで使い道は自由。しかも、葬儀費用は保険会社から直接支払われるので、万一、故人の預金口座が凍結された場合でも安心だ。
四、どんな形の葬儀にするかを考えておく
一般の葬儀形態にこだわらず、お坊さんを呼ばない「無宗教葬」、生きているうちに営む「生前葬」、好きな音楽で送ってもらう「音楽葬」など、自分がどんな形で送ってもらいたいかを事前に記しておく。
五、遺品・遺産整理の準備
自分の財産総額、残しておくもの、捨ててよいものの目録を作っておく。家族の負担を減らすのが本当の愛情というものである。
六、葬儀を執り行う「祭祀継承者」を選んでおく
身近で信頼できる人を選び、「万が一のこと」を頼んでおくこと。ただしトラブルを避けるために、遺言などの公正証書にしておくことが大切だ。
七、家族のための『エンディングノート』
“もしも”の場合、家族が慌てなくてもいいよう、これらのことを『エンディングノート』などにきちんと記しておくこと。これで“人生の終幕”も安心だ。