田部は高卒3年目の大型内野手で、4月6日の甲子園球場で待望の一軍デビュー。1-1ともつれたゲームの延長10回に代打で登場し、タイガースの左腕・岩崎優の前にセンターフライに倒れた。
翌日からはコロナ蔓延によりチーム編成が困難となり、4試合が中止に。12日からの沖縄でのゲームから再始動したが、田部は先発ピッチャーとの関係もあり登録抹消。しかしわずか3日後に、伊藤裕季也が濃厚接触者の疑いで抹消され再び17日一軍には招集されたが、伊藤の陰性が確認されると、出場のないまま再び抹消された。
しかし20日に内野手が2人抹消されたこともあり、この時点でファームで打率.313と好調を買われ三度目の一軍へ呼ばれると、24日には初スタメンに抜擢。カープの同い年の左腕・玉村昇悟の前にノーヒットに抑えられたが、3打席目には犠打を決めて見せ、守備でも強肩を披露。地元島根に一番近いプロの本拠地・広島の地で、チームに貢献するプレーを決めてみせた。
27日にはベイスターズの聖地・横浜スタジアムデビュー。C.C.メルセデスの前にサードゴロに倒れながらも、地元ファンの大きな祝福の拍手が送られた。翌日には抹消されてしまったが、プロ野球選手として確かな一歩を踏み出すことができた。
この後はファームで研鑽を積み、イースタン・リーグで打率7位に食い込む.258をマーク。1年目.240、2年目.185から大きな飛躍を見せ、得点圏は打率.316と勝負強い一面も発揮していただけに、突然の引退発表はセンセーショナルだった。
ルーキーイヤーのファーム最終戦、札止め満員となった“Mr.ベイスターズ”石川雄洋氏の最後のゲーム、1点ビハインドの場面の最終回にタイムリーで石川を生還させ、延長10回にはサヨナラタイムリーで再び石川をかえし、惜別のグータッチを交わした“持ってる男”。ユニフォームを脱いでも55番が躍動していた姿を、ファンは決して忘れない。
取材・文・写真 / 萩原孝弘