事の発端は午前2時30分すぎ、民家が燃えていると近隣住民から消防署に通報が入った。しかし、火の勢いは強く、懸命な消火活動もかなわず民家は全焼してしまう。この時点では、駆けつけた警察官たちも単なる火災事故だと考えていたかもしれない。ところが、焼け跡から見つかった住民の男性Aさん(当70歳)と、その妻女性Bさん(当時66歳)の遺体は異様な状態だった。なんと、2人の遺体から頭部が切り取られていたのだ。
警察の現場検証では、夫婦ともに無数の刺し傷が残されていたことも判明した。Aさんに至っては、凶器に使われた包丁と登山に使うピッケルが腹部に刺さったままになっていたという。司法解剖の結果、Aさんの死因は心臓損傷、Bさんは腹部を刺されたことによる失血死であることが判明した。死亡推定時刻は4月27日の17時から21時頃とされた。警察は、夫婦に残された傷や、灯油をまいて火をつけた痕跡が残されていたことから、殺人・放火事件と断定し捜査を開始した。
執拗に凶器で痛めつけ、そのうえ頭部を持ち去るという残忍な犯行。警察は被害者夫婦が犯人から強い恨みを買っていたのではないかと推測した。Aさんは付近の山林を所有していたことから、土地を巡るトラブルが真っ先に疑われたそうだ。結果、Aさんが知人との間で土地や金銭を巡る数十件の問題を抱えていたことが判明。住民の噂では、被害者宅の近くに住む暴力団関係者と土地の境界線を巡って争っていたという。信ぴょう性は定かではないものの、事件に関係していると疑われた人物が死亡したために、警察の捜査が難航したという情報も見つかった。警察はトラブルになっていた人物全員から話を聞くことにしたが、結局証拠となるものは何も見つからなかったという。
その後も、警察は懸命な捜査を続けたものの、事件に動きは見られなかった。当時の法制度では、殺人事件は発生から15年経過した時点で公訴時効を迎えることになっており、この事件も2010年4月28日にて捜査が打ち切られる予定だった。しかし、刑事訴訟法の改正によって、前日の2010年4月27日に殺人罪の公訴時効が撤廃。現在も地元警察により捜査が続けられているという。
犯人はなぜ夫婦の頭部を持ち去ったのだろうか。被害者の特定を遅らせるためか、単なる私怨か、それとも想像もつかない理由があるのだろうか。証拠となる凶器をわざわざ残していったのも不自然だ。もしかしたら、残虐な犯行方法も含めて、犯人からのメッセージなのかもしれない。